うちの子って、もしかして発達障害? Vol.2
メディアでたびたび取り上げられている「発達障害(発達症)」。前回は、それぞれの特性の現れ方や、「うちの子って、ひょっとして発達障害?」と感じたときの対応などについて、福岡県嘉穂郡桂川町で「遊びの教室リリー」を主宰されている公認心理師の田中智子(のりこ)さんに話していただきました。今回は、一人ひとりの特性に合わせた関わり方のヒントを教えていただきます。
さまざまな支援のアイデアで達成感を育む
気になる特性のある子に対し、親としてどのように関わっていくべきか、悩まれている方もいらっしゃるでしょう。そこで、接し方や声かけのアイデアを紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。
ただ、同じ診断名であっても、特性は一人ひとり違います。すべてのお子さんに当てはまらないかもしれませんが、お子さんの個性に合わせて取り入れてみてください。
●じっとするのが苦手な子どもに対して
じっとすることが苦手なお子さんは、何をすればいいのかわからなかったり、不安感や緊張感があったりして動いてしまうのかもしれません。また、自分に必要な感覚刺激を取り入れて気持ちを落ち着かせようとしたり、集中しようとしたりして動いている可能性もあります。
そのような場合は、じっとしているように言い聞かせるのではなく、適切に動ける場所や活動、役割を準備してみましょう。例えば、家の中をずっと飛び跳ねている場合は、トランポリンやバランスボールを取り入れてみてください。何をすればいいのかわからなくてじっとしていられない場合は、まず、余暇やお手伝いなど、1日の活動スケジュールを組み立ててみてください。そして、目で見てわかる視覚的なスケジュールを作成し、提示してみてはいかがでしょうか?
●衝動的に行動する子どもに対して
お子さんの行動に対して、「~したらダメ」と禁止用語で叱るのではなく、前もって失敗を予防するように心掛けましょう。
衝動的に行動してしまう子どもの場合、例えばお店の駐車場に着いたとたんに車から飛び出そうとします。そこで、あらかじめメモ帳などに「○の印と正しい行動のイラストや文字」「×の印と不適切な行動のイラストや文字」を書いたものを準備し、車の中で「今からお店に行くけれど、お母さんと手を繋いで行くのは○。ひとりで走って行くのは×だよ」と伝えます。そしてルールが守れたら、その瞬間に「すごいね、手を繋げたね」とほめてあげましょう。衝動的な行動が起こる前に少し工夫をすることで、正しい行動を引き出すことができますよ。
●聴覚が過敏な子どもに対して
感覚が過敏なお子さんは、私たちが想像している以上に、光や音の刺激を苦痛に感じています。ですから、苦痛に感じる状況の中で無理に頑張らせるのではなく、ストレスが軽くなるための工夫や配慮が必要です。大きな音が苦手なお子さんの場合は、イヤーマフ※を活用したり、静かな環境を準備したり、声のボリュームを少し落として声をかけたりすると良いでしょう。
※周囲の不快な音や騒音を低減する防音用の保護具。
●理解のコミュニケーションが苦手な子どもさんに対して
まず、お子さんが何を見て理解しているのかを知ることから始めましょう。言葉? 文字? イラスト? 写真? 言葉や文字でもわかるけど、イラストを見た方がイメージしやすいタイプのお子さんもいるかもしれません。
自閉スペクトラム症のお子さんの場合、目で見て分かる支援が有効だと言われています。言葉で伝えることだけにこだわらず、子どもさんの理解レベルに応じて、具体的な物や写真などを示しながら伝えると理解がしやすいですよ。例えば歯磨きをする場合も、「歯磨きするよ、洗面所に行きなさい」と口頭で伝えるのではなく歯ブラシの絵カードを見せてみたり、「ご飯だよ」と伝えたいときにはお茶碗を渡したりすると、こちらの言うことが伝わりやすく、お子さんも安心して行動できます。
言葉が理解できるお子さんの場合、「ここ」や「そこ」などの曖昧な言い方はわかりにくいもの。「座ろうね」「歩こうね」など、具体的で簡潔に伝えることを心掛けましょう。また、「走ったらダメ」という禁止用語も、すべき行動がわからなくて混乱してしまうかもしれません。「歩こうね」のように、肯定的な表現で伝えることも、声かけをするときのポイントです。
●発語がない(なかなか言葉が出ない)子どもに対して
言葉をコミュニケーション手段として使うことが苦手なお子さんは、してほしいことや嫌なこと、困ったことを伝えるときに、「泣く」「物を投げる」「手を出す」「諦める」などの行動で表現しがちです。そういったお子さんの場合、絵カードを使ってコミュニケーションをとる方法を取り入れてみるのも有効です。
例えば、あらかじめお菓子の絵を描いたカードを準備しておき、お菓子がほしいときはお菓子の絵カードを渡すように教えます。それを繰り返していくうちに、「気持ちを伝えるときには、絵カードを渡す」という行動に変わっていきます。
PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム):
絵カードを用いた代替/拡大コミュニケーション方法で、自発的なコミュニケーションを身に付ける学習方法です。
いずれにしても、その子の行動や言動を「問題行動」として捉えるのではなく、何かのSOS、もしくはメッセージだと受け取って、その理由や原因に目を向けてみるのが大切です。
子どもとのスキンシップを大切に
乳幼児期にはスキンシップをたくさん取るようにしましょう。ギューっと抱きしめたり、膝の上に乗せて遊んだり、本人が興味を持っているおもちゃなどで一緒に遊んだり。「お母さんといると安心だな」「一緒にいると楽しいな」といった気持ちを育むことが大切です。
苦手な部分は工夫や便利グッズでカバー
私は、子どもたちに「苦手があっても大丈夫だよ。苦手は技や工夫を使ってみよう。それでも難しいときには相談するスキルを使おう!人に頼っていんだよ!」と伝えるようにしています。
得意と苦手は誰にでもあるものです。苦手は、工夫や技を身に付けることでカバーできますし、それでも難しいときには、”人に相談をする”というスキルを身に付けておくと便利です。
最近はスケジュール管理や学習に役立つ便利なグッズやアプリもありますし、専門家に聞けば、日々の生活の中で使えるアイデアや、その子に合った手立てを教えてもらえます。苦手な所を克服しようとするよりも、苦手は工夫や技、便利グッズでカバーして、得意なところを伸ばしていきましょう。
どの子も、必ず成長する
特性のある子どもたちの成長には個人差があり、中には、ゆっくりペースのお子さんもいます。しかし、できることは確実に増えていきますし、必ず成長していきます。先日も、教室に通うお子さんのお母さんと「子どもの成長って、本当にすごいですよね」と話をしたばかりです。
そのために必要なのは、その子の特性に合わせた適切な支援です。まずは、子どもの特性や行動の原因を知ることから始めましょう。そして、環境を工夫したり、正しいスキルを教えたりすることで、お子さんが「自分でできた!」という経験や達成感を増やしていくことが大切です。
最終回となる次回は、特性のあるお子さんに対して、親として、家族として、また周囲の大人としてできることなどについてお伝えします。
profile
田中智子(たなかのりこ)さん
公認心理師。「遊びの教室リリー」代表。西南女学院大学保健福祉学部福祉学科今本ゼミで自閉症支援について学び、臨床を経験。ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン(株)、福岡県発達障がい者支援センターの勤務を経て、「遊びの教室リリー」をスタート。未就学から成人期までの相談支援、個別・集団療育、講演活動、施設や学校のコンサルテーションなどにあたる。