ミニマリスト・やまぐちせいこさんが考える、発達障害の娘の居場所づくり 第1話
できるだけモノを持たずに、豊かに暮らす。先月の特集で、大分県在住のミニマリスト・やまぐちせいこさんのシンプルライフについてご紹介しました。その中でも触れていますが、実は、現在中学2年生になるやまぐちさんの長女は発達障害を抱えています。小学4年生の時に診断を受けて以来、悩み、試行錯誤を繰り返しながら、娘さんの病に向き合い、家族が快適に生活する方法を模索し続けているやまぐちさん。現在は、お仕事でも発達障害の方やその家族の片付けにも積極的に取り組んでいるやまぐちさんの、これまでの娘さんとの歩みについて、2話にわたってご紹介します。
★やまぐちせいこさんのインタビュー「”できるだけ持たない”豊かなくらし」はこちらから。
周囲とのコミュニケーションがとれない
発達障害にはたくさんのタイプがあると言われますが、まず、やまぐちさんの娘さんはどのような症状を伴っているのかお聞きしました。
やまぐちさん:
「娘には自閉症スペクトラムや多動性障害、アスペルガー、学習障害などがあり、症状もさまざまです。一つのことに必要以上に強くこだわったり、過敏に反応したり、集団行動ができなかったりと、パーソナリティーの部分に強い影響が出るものや、同じ動きを繰り返す“常動運動”という運動障害などが主な症状です。
中でも、社会生活において最も支障をきたしているのは、周囲の人とのコミュニケーションがうまくとれないことですね。その場の空気が読めず、相手の話していることや表情を読み取ったり、理解したりすることが難しいようです」
転校先でのいじめを機に受けた検査で発達障害と診断
では、娘さんはどのような経緯で発達障害と診断されたのでしょう。
やまぐちさん:
「娘が小学3年生の時、引っ越しを機に転校した時から、同級生にいじめられるようになったんです。最初は、よくある転校生に対するいじめだろうと考えていたんですが、詳しく聞いてみると、その原因が娘の行動にあることも多くて、なんとなくおかしいなとは感じていました。
その後、小学4年生になると、娘へのいじめはますますエスカレートするんですが、同時に『プールの後、みんながシャワーを浴びている時にツバを吐いた』とか『みんなが同じことをしている時に一人だけ違うことをする』など、娘の問題行動も顕著になりました。そこで、本格的に検査をしたところ、発達障害と診断されたんです」
基本の生活習慣を身につけられない
以降、やまぐちさんは発達障害と診断された娘さんと、さまざまな角度から向き合いながら暮らしてきました。現在、娘さんとの日常の中で最も困っていることは?
やまぐちさん:
「娘は、自分が好きなことには過剰なほどとことんのめり込みますが、そうでないことに対しては、自分からは一切やろうとしないんです。
彼女はパソコンやゲーム、絵を描くことが大好きで、放っておくと朝から晩までひたすらそればかりしてしまいます。1日に100枚も絵を描くことも珍しくありません。けれども『歯を磨く』『顔を洗う』『身支度を整える』などの基本的な生活習慣に対しては、娘には『やらなければいけない』という概念がないため、なかなか習慣付けることができないんです。ですから家族全員で、できるだけ娘の日常生活をサポートできるように工夫しています」
「やることリスト」で、毎日の生活をチェック
絵を描くことが大好きな娘さんが自作した「やることリスト」用のマグネット。
毎朝の身支度で終えたらひっくり返すと「やったよ!」と書かれたイラストに。
娘さんとお父さんが一緒に確認できるように「見える化」しています。
娘さんへの日常生活のサポート、そのひとつがリビングルームに掲げたホワイトボードに書かれた「やることリスト」です。
やまぐちさん:
「『朝の身じたく』と『夜にする事』を箇条書きにして、ちゃんとできているかどうかを毎回確認するボードを、娘と夫で作りました。
以前、私が出張などで数日間家を空けた際に、夫がなかなか娘のサポートができず、その結果、娘は朝から深夜までパソコンに熱中していたということが何度かあったんです。『そんなことでは困る』と夫と話し合ったのですが、夫は娘をほったらかしにしているのではなく、『何をやらせればいいかがわからない』というんですね。だったら、娘が毎日やるべき基本の生活習慣の一つひとつを見える化しようということで、このボードを作りました。
このボードは将来、娘がきちんと自立するための学習ツールでもあります。歯を磨き、顔を洗ってから外出することも、社会に関わるために最低限必要なことですから」
学校に行きたくない日は休ませる
発達障害と診断されて約4年、現在中学2年生になる娘さんは、特別支援学級で学んでいます。
やまぐちさん:
「できるだけ“平和”に学校生活を送れるよう先生たちとも情報を共有し、いろいろと協力していただいているのは本当にありがたいことです。
でも、娘が学校に行きたがらない日は、無理に行かせないようにもしています。学校を休んだからと言っても、その1日が自由なわけではなく、ホワイトボードに書いた『学校をお休みしたときのルール』に従って過ごすという約束をしています。
朝はいつも通りに起きる、『やることリスト』はいつも通りにやる、ゲームやパソコンはしない、そして朝と夕方は家のお手伝いをきちんとすることも決めています」
社会性を身につけるために、家事の手伝いも
当然のことながら、家の手伝いをさせることも、自立に向けた社会性を身に付けるという点で欠かせないことです。
やまぐちさん:
「洗濯物を干したりお皿を洗ったりという基本となる家事は、できるだけ娘にもやらせるようにしています。もちろん、なかなか完璧にはできませんし、洗濯物を干してもシワがのばせなかったり、お皿を洗っても油がきれいに落ちていなかったりすることもしばしばです。でも、そんな時も『ありがとう』とひと声かけて、娘にわからないようにこっそり洗い直します(笑)」
娘さんと向き合う日々の中、整理収納アドバイザーとしても活躍するやまぐちさんは、発達障害を抱えた方やその家族が快適に過ごすための片付けにも取り組むようになりました。2話では、発達障害の娘さんとの住まいづくりや親子の向き合い方などについてお話をお聞きします。
profile
やまぐちせいこさん
ミニマリスト、ライフオーガナイザー、整理収納アドバイザー。結婚後、夫の度重なる転勤を機にミニマルな暮らしを実践。現在は講演活動の他、個人宅の整理収納アドバイスや、発達障害を持つ自身の娘の部屋づくりの経験から「発達障害×片付け」をキーワードに活動中。著書に「少ない物ですっきり暮らす」(ワニブックス)、「シンプル思考ですっきり身軽に暮らす」(マイナビ出版)、「無印良品とはじめるミニマリスト生活」(KADOKAWA)など。
ブログ「少ない物ですっきり暮らす」はこちら↓
http://yamasan0521.hatenablog.com