ミニマリスト・やまぐちせいこさんが考える、発達障害の娘の居場所づくり 第2話

ミニマリスト・やまぐちせいこさんが考える、発達障害の娘の居場所づくり 第2話

中学2年生になる長女の発達障害と向き合う、大分県在住のミニマリスト・やまぐちせいこさん。第1話では、娘さんのしょうがいの発覚前から現在までの様子や、日々のくらしぶりなどをご紹介しました。今回は、やまぐちさんが娘さんとの生活のために実践している住まいの工夫や、発達障害を抱える娘さんとどのように向き合っているかについて、引き続きお聞きします。

★やまぐちせいこさんのインタビュー「”できるだけ持たない”豊かなくらし」はこちらから。

しょうがいと診断される前は、娘を叱ることも多かった


ミニマリストであり、整理収納アドバイザーでもあるやまぐちさんが現在、取り組んでいる「発達障害×片付け」。そのベースになっているのが、娘さんと家族とが快適に暮らすためにこれまでに取り組んできたさまざまなノウハウです。

やまぐちさん:
「娘は、モノを認識する能力が普通の人と大きく異なります。例えば今、自分が探しているモノが目の前にあったとしても、周りがごちゃごちゃしていたり、他のモノであふれていたりすると、その中に自分の探しているモノを見つけることができません。本人が『ない』と認識してしまえば、例えそばにあっても、それは『ない』ことになってしまいます。
発達障害と診断されるまで、すぐにモノをなくし、なくしたモノをうまく探し出せない娘の態度を叱ることもたびたびありました。でも、病気のことを詳しく知り、『私にとっては簡単だと思うことが、娘にとってはとても努力しなければならないこと』だとわかった時は、自分の感情だけで叱っていたことに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたね」

くらしの中の情報をできるだけ少なく


やまぐちさん:

「部屋の中にモノが多ければ多いほど混乱してしまう娘の場合は、逆にモノが少なければそれだけ感情の乱れや混乱も防げ、集中力も増します。だからわが家では、モノはできるだけ減らして、彼女の目に入る情報を極力少なくしているんです。リビングで家族が使う小物などを収納しているスペースも、必要のないときにはロールカーテンをかけて目隠ししています。

娘には、普通の人には察知できないような微妙な音も耳に入ってくる聴覚過敏の症状もあるので、普段はできるだけ静かに、テレビやラジオもなるべくつけないようにしています」

モノの居場所を写真や文字で明確に


やまぐちさん:

「使ったモノを元の場所に戻すことがなかなかできない娘のために、文房具やおもちゃ、学校の道具など、彼女の持ち物に対しては、すべて所定の位置にその道具の写真を貼って、戻す場所が一目でわかるようにしていました。

今でも、これは家族で家事をシェアするためでもあるのですが、洗面所の衣類や洗濯物の仕分け、台所のモノの置き場所などは、それぞれにラベルを貼って置き場所を表示しています」

症状をきちんと把握した上で住まいづくりを

娘さんの部屋。向かって右側は学校で使うモノや制服、左側は洋服と布団と、
「ゾーン」を分けることですっきりと片付けられる部屋になっています。


このように、「発達障害を持つ子どもができるだけ安定した生活を送れるよう、家の中の環境を整えることはとても大切だ」とやまぐちさんは言います。

やまぐちさん:
「ただ、今お話ししたのはあくまで娘のケース。発達障害の症状は千差万別です。
私は発達障害を抱える子どもを持つご家庭や、発達障害を抱える方のご自宅の整理や収納のサポートもしていますが、しょうがいの度合いや中身によって、住まいづくりの方法は一人ひとりまったく異なります。娘とは反対に、家の中にごちゃごちゃモノがあふれていた方が落ち着くという場合もあるんです。

ですから、親が推測で判断するのではなく、まずは担当の医師やカウンセラーなどとも相談して、その子の症状や行動パターンなどをきちんと把握することから始めてほしいと思います」

共依存を防ぐためにも子どもから離れる時間を


そんなやまぐちさんに、自身の経験から得た、発達障害のある子どもとの付き合い方についてのアドバイスをいただきました。

やまぐちさん:
「子どもをきちんとケアしていくために大切なのは、親御さんの心のゆとり。そのために、まずは自分で自分を“支援”してほしいのです。

私もそうでしたが、子どもさんが障害を持つ親のほとんどは、『子どもには私しかいない』と思い込み、常にそばにいてサポートをしなくてはと考えてしまいがちです。でも、そうなると次第に子どもも親にあらゆることをゆだねるようになり、とても閉鎖的な親子関係になってしまいます。いわゆる“共依存”ですね。これでは、子どもの成長にも、親の心身にも悪影響をきたしてしまいます。
私は、積極的に子どもから離れる時間をつくり、夫が家にいる時にママ友のサークルやカラオケに行くなど、できるだけ自分が発散できる時間をつくるようにしました」

ストレスを溜めないよう、自分を解放してあげる


やまぐちさん:

「共依存の状態が続くと、親は子どもに対する辛い気持ちの持って行き場がなくなって、ついつい子どもにあたってしまいます。そうなると、一番苦しんでいる子どもをさらに追い詰めてしまうことにもなりますし、『なぜあんなことを言ってしまったのか』と親の方も後悔してしまう。そうやってお互いに傷つけ合い、さらに子どもにあたる…と、負のスパイラルに陥りがちです。
できるだけ外に出る、自分の楽しみを持つ、他者の協力を仰ぐなど、自分を解放してストレスを貯めない工夫が必要だと思います」

思いを書くことで、自分を客観視できる


さらにやまぐちさんはもうひとつ、娘との向き合い方を考えるためにやっていたことがありました。

やまぐちさん:
「自分の心のありのままをつぶやいたり、自分の素直な気持ちを文章にしたりと、公開しないブログをしばらく書き続けていました。書くという行為は、自分の思いを吐き出し整理するのにとても役立ちます。後でそれを読み返すことで自分の思考パターンがよくわかり、客観的に自分を知ることができますから。
そうやって自分が苦しんだり落ち込んだりする時の感情のパターンや、それらを伴う行動パターンが見えてくると、子どもへの負の感情に対して回避できるすべも徐々に身につくようになると思います。
まだまだ完璧ではありませんが、そんなこんなで私も少しずつ、娘の居場所づくりや、娘へのケアの方法を探っているところです」

時にユーモアを交えながら、娘さんとの日々を楽しく語ってくださったやまぐちさん。いろいろな葛藤を乗り越えてきたからこその、大変説得力のあるお話でした。娘のしょうがいを受け入れ、ともに楽しくポジティブに生きる、そんなやまぐちさんの姿にとても多くのことを学んだ気がします。

profile

やまぐちせいこさん

ミニマリスト、ライフオーガナイザー、整理収納アドバイザー。ブログ「少ない物ですっきり暮らす」を運営。結婚後、夫の度重なる転勤を機にミニマルな暮らしを実践。現在は講演活動の他、個人宅の整理収納アドバイスや、発達障害を持つ自身の娘の部屋づくりの経験から「発達障害×片付け」をキーワードに活動中。著書に「少ない物ですっきり暮らす」(ワニブックス)、「シンプル思考ですっきり身軽に暮らす」(マイナビ出版)、「無印良品とはじめるミニマリスト生活」(KADOKAWA)など。

ブログ「少ない物ですっきり暮らす」はこちら↓
http://yamasan0521.hatenablog.com