発達障がいのある方も大歓迎なヘアサロンを紹介!「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」

発達障がいのある方も大歓迎なヘアサロンを紹介!「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」

しょうがいのあるお子さんを育てているご家庭には、何かと悩みが多いもの。その一つに、ヘアカットがあります。
しょうがいのある子どもや大人の中には、「じっと座っていられない」「ハサミの音が怖い」などの理由で、ヘアサロンに通えない方がいるのです。やむなく親の手でわが子の髪を切るしかないのですが、もちろんきれいに切れるわけがない…。
そんな悩みを抱える親子のために、しょうがいのある方も大歓迎なヘアサロンを紹介するサイト「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」を独自に立ち上げたのが、NPO法人キープ・ママ・スマイリングの栗山美果(くりやまみか)さん。立ち上げるに至った経緯やサイトに込められた思いを伺いました。

「こんなヘアサロンがあったら」の声をもとに


栗山さん:
「私が立ち上げた『ゆっくりさんのヘアサロンサーチ』は、発達障がいのある方も気兼ねなく通えるヘアサロンを紹介するサイトです。

『ゆっくりさん』とは、発達がゆっくりな人たちへの親しみをこめたネーミング。掲載にあたって、ヘアサロンの方々には特にご対応いただきたい10項目(下記参照)を提示して、そのうち4項目以上の対応が可能であることを必須とし、他にも『ゆっくりさんのヘアカット経験があること』など、いくつか条件を設けて安心して訪れてもらえるようなサロンだけを紹介しています。
これらの項目は、実際に、発達障がいのある子どもを育てる親御さんにアンケートを取って選びました。『こんなヘアサロンだったら気兼ねなく連れて行ける』と、特にご要望の声が多かったものです」


「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」親たちの声を集めた10の要望

1. 営業時間外(30分前後など)にも予約できる。
2. 事前にヘアカットの様子を無料で複数回、見学できる。
3. カットを中断した場合、その日は次回の予約と半額を支払い、次回のカット完了後に残りの料金を支払える。
4. DVDを持ち込んで、ヘアカット中に鑑賞できる。
5. 短時間(10分程度)でもヘアカットを完了できる。
6. 低騒音バリカン、トリマー、またはハサミのみのヘアカットができる。
7. 状況に応じて、椅子以外の場所でのヘアカットにも対応できる。
8. 個室で対応してくれる。
9. ヘアカットの前に、イラストや写真などで手順を説明してもらえる。
10. 自宅に訪問してヘアカットしてくれる。

「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」はこちらから。


甥・姪の自閉症をきっかけに


独自に「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」を立ち上げ、ヘアサロン探しからサイト運営まで、一人で実施している栗山さん。その熱意はどこからくるものなのでしょうか。

栗山さん:
「実は、私の妹の子どもたちも、ゆっくりさんです。甥っ子・姪っ子4人のうち、3人が『自閉症スペクトラム※』というしょうがいがあります。妹からヘアサロン探しに困っていると相談されたことが、このサイトを立ち上げる大きなきっかけになりました。
※対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障がいの一つです。

『聴覚が過敏で、耳元でハサミの音がするのが恐い』『次に何をされるのかが予測できないことが恐い』という子、また『椅子にじっと座っていられない』という子にとって、ヘアサロンで髪を切ってもらうことは、とても難しいことです。ならば、しょうがいに理解があるヘアサロンを探したい。でも検索しても、なかなか見つからないんです。
当時、『発達障がい ヘアサロン』で検索しても、見つけられたのは九州で大分と沖縄にわずか2軒。福岡市内には1軒も見つけられませんでした。

発達障がいのある子は、ただでさえ手が掛かります。育児に追われる親が、一軒一軒ヘアサロンをあたってわが子の特徴を説明し、対応してくれるお店を探す時間なんてありません。そのヘアサロン探しを代行し、手軽に検索できるようにと立ち上げたのが『ゆっくりさんのヘアサロンサーチ』です」

大切にしてもらいたいのは、スモールステップ


美容師さんに「じっとしてないと切れないよ!」と子どもの多動をたしなめられて、親のほうがヘアサロンに苦手意識をもってしまうこともあるそうです。

栗山さん:
「もちろん『刃物を扱っているから危ない』ということでの声掛けだとはわかっているのですが、申し訳なく思ってしまう親御さんは多いんですよね。
親御さんがヘアサロンに求めているのは、発達障がいの専門知識というよりも、思いやりをもって気長に接してもらうことです。
前もってお店を見学させてもらったり、次にすることを説明してもらったりと手順を踏めば、ゆっくりさんのヘアカットはそれほど難しいことではありません。『今日はよく来てくれたね』『椅子に座れたね』とスモールステップで褒めてあげて、ケープを巻く前には『これを首に巻くね』と美容師さん自身がケープを巻く姿を見せながら声を掛けてもらえれば、ゆっくりさんも安心できます」

社会生活に欠かせない身だしなみ

※写真はイメージです。

子どものうちからヘアサロンに通えるようになることは、将来のためにも大切なことだと栗山さんは考えます。

栗山さん:
「ヘアサロンに行けないお子さんの髪を、自宅で親御さん自らカットしている話もよく聞きます。それさえも大変で、床一面にブルーシートを敷いて子どもを追いかけながら髪を切っている人もいました。上手にヘアカットできないことを親御さんは笑い話として話すのですが、もちろん本心は、プロの手を借りて、わが子のヘアスタイルを少しでもかわいく、格好よくしてあげたい。
私の甥っ子もそうです。以前は冬でも親の手で丸刈りにするしかありませんでしたが、今ではプロの手にかかって、すっかり格好よくなりました。『将来は俳優じゃない?』なんて大人たちで話しているんですよ(笑)。

ヘアサロンに通えるようになることは、身だしなみを覚えることにもつながります。身だしなみは、社会生活を送る上で、また将来、就労の際にも欠かせません。ゆっくりさんは基本的に初めてのことが苦手なので、できるだけ子どものうちからヘアサロンへ通うことに慣れさせられたらいいなと…」

地域に、親子の味方を増やしたい


発達障がいのある子どもたちを育てる妹さんの様子を、すぐそばで見守ってきた栗山さん。ゆっくりさんの親たちは、心身ともに追い詰められやすいと言います。

栗山さん:
「発達障がいは見た目にそれがわかりづらいので、周囲に理解されずに傷ついている親御さんたちは少なくありません。『しつけが足りないのではないか』と非難するような視線を向けられても、一人ひとりに事情を説明して歩くわけにもいかないし、どこへ行っても謝り続けて、『仕方がない』とあきらめることが増えていくんです。今、この瞬間にも、孤立して追い詰められている親御さんがいる。でも、理解したいと思っている人もたくさんいるんです。『ゆっくりさんのヘアサロンサーチ』に共感してくれているヘアサロンの方々もそうですよね。

2018年8月にサイトをオープンして、2019年5月現在、福岡県の登録サロンは9軒、掲載希望をいただき記事を準備しているサロンが19軒まで増えています。中には、10項目のお願いすべてに対応してくれるヘアサロンもあります。
美容師さんたちの『手助けしたい』という思いを、親御さんたちにも広く知ってほしい。地域に、家族以外にも『ここだったら怒られない』『かわいがってもらえる』とゆっくりさんが安心できる場所を見つけることは、その子自身の成長にも、そして親御さんにとっても大切なことだと思います。
そして、こういった悩みはヘアカットのことだけではありません。ゆくゆくは、歯科や病院などにもジャンルを広げて、ゆっくりさん親子の味方を地域に増やしていきたいですね」

「『ゆっくりさん』を見ました」のひと言で


栗山さん:
「当面の目標は、1都道府県につき20軒のヘアサロンを紹介すること。どこに住んでいても、なんとか通える場所が1軒は見つかる、という状況をつくりたいと考えています。
そして、当サイトがめざすのは、『ゆっくりさんのヘアサロンサーチを見ました』と伝えるだけで、『わが子に発達障がいがあって、そのための配慮を求めている』ということがヘアサロンの方々に伝わることです。そのように活用してくれている親御さんも増えています。また発達障がいに限らず、ヘアサロンが苦手なお子さんのことでお困りの方も、ぜひ一度サイトをのぞいてみてください」

できる限り自分でお店へ足を運び、オーナーにも直接お会いしてヘアサロンを紹介している栗山さん。サロンの紹介ページにはオーナーの顔写真とともにコメントも掲載されているので、安心して訪問できるのではないでしょうか。ヘアサロン探しをきっかけに、地域に親子の味方を見つけてください。


「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」はこちらから。

profile

栗山美果(くりやまみか)さん

栗山美果(くりやまみか)さん

NPO法人キープ・ママ・スマイリング、NPOふくおか子どものこころサポート研究所所属。福岡市在住。甥・姪が発達障がいであることをきっかけに、「ゆっくりさんのヘアサロンサーチ」を開設。

・NPO法人キープ・ママ・スマイリング
 http://momsmile.jp
・NPOふくおか子どものこころサポート研究所
 https://www.facebook.com/fukuoka.kks/