心のゆりかごでママを守る 産後うつの話 第1話

心のゆりかごでママを守る 産後うつの話 第1話

出産後、赤ちゃんを前に気分が落ち込んだり、急に不安になって涙が出てきたり…「これって、もしかすると産後うつ?」。今回、福岡県筑紫野市にあるスタジオリカクリニックの田中理香(たなかりか)先生に、ママの笑顔と赤ちゃんの健やかな成長を守る「産後のメンタルケア」についてお話を伺いました。3回に分けてお届けします。

マタニティーブルーとはどう違う? 知っておきたい「産後うつ」の話

――はじめに「産後うつ」とはどんなものなのかをお聞きしたいのですが、産後によくある気分の浮き沈みや、怒りやすくなる症状。これは「産後うつ」と思ってよいのでしょうか?

田中先生:
産後、わけもなく涙が出る。周囲の軽い一言に傷つく。育児への不安が募って気分が憂鬱(ゆううつ)になる。これは、8割の妊産婦が経験すると言われている「マタニティーブルー」です。多くの女性が月経前後に感じるイライラや不快感、感情の不安定さなどと同じで、誰にでも起こりえます。

「産後うつ」は、そうした「マタニティーブルー」のような状態が長期にわたって続く場合に言われるもので、一般的に「産後3~4週間以上続く場合」と定義されることが多いですね。


――「マタニティーブルー」は産前のイメージがありましたが、産後も含まれているのですね。では「産後うつ」は産後3週間を目安として、症状をチェックすればよいのでしょうか?

田中先生:
一概に「産後3週間」と区切れない面もあります。産前産後は里帰りする方も多いと思いますが、例えば、ママにとって恵まれた環境が用意されている場合と、そうでない場合では、「産後うつ」の症状が現れるタイミングは異なります。

家族との関係がうまくいかなかった場合は、産後すぐに必要以上のストレスやイライラを抱え込んでしまいますし、家族のサポートで穏やかな3週間を過ごした方も自宅に戻って一人で育児に向き合わなければならない状態になったとき、心身共に大きな負担を抱え、疲れが出てしまって当然です。

ですので、不安や気分が落ち込むなどの自覚症状がある場合は、産後3週間を待たずに一度チェックしてみてもよいと思います。
★「産後うつ」のセルフチェックについての記事はこちら


――「うつ」という言葉のイメージで、「産後うつ」も深刻な病気に捉えがちですが、実際はどうなのでしょうか?

田中先生:
「うつ」と聞くと、「治らない病気」だと思う人は多いみたいですね。でも「病気」って、そもそも明確な原因があって発症するもので、原因がいくつもあって発症するものは「症候群」と呼ばれるんです。「うつ」の要因も一つではなく、いろんな要因が重なって発症したり、原因が分からずに発症したりするので、「産後うつ」も症候群になります。


――いくつもの原因があって発症するものだと分かれば対処の方法も変わってきそうですね。

田中先生:
「産後うつ」は、いわば「心の生理痛」のようなもの。人によっては病院に行くほど重い症状が出る場合があるし、軽い症状で済んでしまう場合もあります。一度のカウンセリングで気分が落ち着く人もいれば、何度もカウンセリングを重ねてようやく抱えている不安や思いを吐き出せる人もいます。
回復に要する時間やリズムも、取り巻く環境によって異なってきます。でも、つらい時期や苦しい期間が過ぎてしまえば、スッキリ気持ちが晴れて、どうしてあんなに悩んだんだろう、苦しんだんだろうと思えるようになりますよ。

パパだってなりうる?! 「産後うつ」は子育ての大事な課題

田中先生:
ところで、「産後うつ」はママだけでなくパパもなりうることはご存じですか?


――女性特有のものではないんですか?

田中先生:
パパの場合、子どもが生まれたことで、責任感やプレッシャーを抱え込んでしまうケースが多いようですね。従来、男性は他人に相談することが苦手な傾向があるので、抱えたストレスやプレッシャーをうまく発散できず、悪化してしまうことも多いようです。


――ママとしてはつい自分ばかりつらいと思ってしまいそうな…

田中先生:
妊娠・出産というのは男女問わず、責任やプレッシャーを感じるものです。キラキラした面ばかりでなく、「産後うつ」などのマイナスな面もあって当然のこと。妊娠・出産によって生じる身体的リスクだけでなく、心的ケアの必要性もしっかり理解して、忘れずにいることが大切です。
マイナスの情報を把握し、パートナーや周囲と一緒にしっかり備えておけば、問題に直面した時のショックも小さく、責任やプレッシャーを必要以上に感じたときに、「自分だけかも」、「治らないかも」と、ますます抱え込んでしまうようなことを回避できるのではないでしょうか。


―― 産後の生活をイメージして情報収集したり、ベビーグッズをそろえたりすることと同じように、「産後うつ」についても準備しておくべきですね。

田中先生:
私は、「産後うつ」は子どもを一人の大人として世に送り出すという大きな目標をめざして、取り組むべき課題の一つだと思っています。それがパートナーシップの成長にもつながります。
例えば夫婦で家を購入する場合、互いに住み心地の良い家を持とうと、意見をぶつけあうでしょうし、真剣に向き合えばこそ、ケンカになることもありますよね。同じように子育てについてもたくさん意見を交わし、それでも難しいと感じる場合は、周囲を巻き込んで一緒に乗り越えてもらいましょう。
そうすることで、新たな信頼関係を築くことができ、強いコミュニティも出来上がると思います。専門医の治療やカウンセリングも周囲にあるサポートの一つ。産後のつらさを乗り越えるために必要であれば、いつでも手を借りてください。

たくさんの思いやりで、心のゆりかごを作ろう

―― 一方で父親だから、母親だからという周囲の決めつけが、不要なストレスにつながっていることもあるような気がします。

田中先生:
そうですね。周囲の人たちもしっかりと向き合うべきことだということを、伝えたいですね。たくさんの人が思いやりの手を差し出して、産後の揺らぎやすい心のバランスをゆりかごのように保つ「心のゆりかご」を準備しておいてほしい。ママが一人で大変な時、その「心のゆりかご」が、赤ちゃんやママを守ってあげられれば、救われることがたくさんあると思います。


――今年はコロナ禍で里帰りできない方も多いでしょうから、孤独感を抱えているママも増えているんじゃないでしょうか。

田中先生:
今は、産後の手伝いもサポートも受けられずにいるママは増えていると思います。初めての育児に戸惑っているママも多いでしょう。また、まだ手がかかる上の子の相手をしながら生まれたばかりの赤ちゃんのお世話に追われているママもいることでしょう。

そんなママたちに伝えたいのは、「ママだから」、「親なのに」と頑張りすぎることはないということ。保育園や託児施設、自治体のファミリーサポート(※)など、周囲の手を借りたり、子育てサービスを利用したりして、体を休めて癒やすことは決して悪いことではないのですから。

「子育てのプロ」に任せることで、心身がリフレッシュできるだけでなく、子育てに関する勉強や発見が得られることもあると思いますよ。


――ファミリーサポートで保育園の送迎を依頼したり、「ゆっくり寝たい」、「ゆっくりご飯を食べたい」と思ったときは一時預かりを利用したり、ぜひ積極的に周囲のサポートを活用してほしいですね!

次回は「産後うつ」になるとどうなるのか、セルフチェックや周囲が気づけるポイントと共に、お話を伺います。


※地域で子育ての支援をするために、育児の援助を受けたい方(依頼会員)と育児の援助を行いたい方(提供会員)がセンターを橋渡しにして会員登録をし、提供会員が依頼会員に対して援助活動(有償)を行う会員組織です。

エフコープにもくらしの中で手助けを必要としている方、家事支援を必要とする方を幅広くサポートする独自の有償サービス「ふれあいサービス」があります。
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profile

田中理香(たなかりか)先生
1987年杏林大学医学部卒業。東京医科大学精神神経科を経て英国に渡り、ロンドン、タビストッククリニック児童・思春期部門にて研修。ユング派分析家国際資格取得。帰国後は医療法人社団新光会 不知火病院での勤務を経て、2002年に筑紫野市でスタジオリカクリニックを開院。

英国での経験から周産期ケアの重要性を感じ、産前産後のママやパパに向けた講演活動や地域の保健師や助産院などの連携強化にも積極的に取り組んでいる。

〈スタジオリカクリニック〉
https://www.rikaclinic.jp/

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