心のゆりかごでママを守る 産後うつの話 第3話

心のゆりかごでママを守る 産後うつの話 第3話

「産後うつ」は、誰しもがなりうるものであり、パートナーや周囲の人が一緒になって産後のママの心を「ゆりかご」のようにバランスを保つことで、乗り越えられるものと教えてくれたスタジオリカクリニック 田中理香先生の「産後うつ」のお話。最終回となる今回は、「産後うつ」に備えて摂取しておくべき栄養の話と、田中先生からこれからママになる方や子育て中のママへ伝えておきたい思いをお伝えします。
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「産後うつ」と「貧血」の意外な関係性

――「産後うつ」にならないために、予防策としてできることはありますか?

田中先生:
貧血にならないよう、鉄分補給を意識することも「産後うつ」の予防につながります。鉄分は脳の働きに必要なミネラルなので、それが不足するとメンタルバランスが崩れやすくなり、「産後うつ」につながりやすくなるんです。

実際、貧血の主な症状である、立ちくらみやふらつき、めまい、息切れや動悸などは、「産後うつ」でもよく現れる症状です。ほかにも、疲れが取れにくかったり、気力が低下したりするなど、貧血はうつの症状に似たところがあります。貧血だと思っていたら、実は「産後うつ」だったということも多いんですよ。


――産後に貧血を引き起こしてしまうのはなぜなのでしょうか?

田中先生:
妊娠中は、胎盤を通じて赤ちゃんに優先的に栄養が送られ、出産時は出血が伴うことで貧血になりがちですが、産後は母乳で鉄分を失うため、貧血を引き起こしやすくなるんです。また、産後のママは赤ちゃんの世話に追われて睡眠不足になることが多く、食欲が落ちて体の栄養が不足しがちです。体のダメージを回復できずに体調不良を後回しにする状態が続くと、深刻な「産後うつ」に陥ってしまうこともあります。心身ともに十分な産後ケアを心掛けてほしいですね。


――自分が貧血になっていることに気付くにはどんな方法がありますか?

田中先生:
妊娠中や産後に行われる定期検診の貧血検査で、ヘモグロビン(血色素)の数値だけでなく、体に鉄分を蓄積するために重要な役割を持つ「フェリチン」の数値が基準値を満たしているか、極端に少なくないかを担当医に確認すると良いと思います。

「疲れ」「だるさ」「気分の落ち込み」という貧血の自覚症状は、「妊娠中だから」「赤ちゃんの世話が大変だから」と見逃されやすく、気付いたら深刻な状態になっていた…なんてことも少なくありません。特に授乳中のママは不調を感じても、「薬を飲むと母乳に影響があるかも」と我慢してしまいがちしれません。でも、赤ちゃんにとって一番大事なことは、ママが元気で笑っていてくれること。少しでも気になったら、ためらわずに病院を受診しましょう。

鉄分をしっかり補給して「産後うつ」を予防

――「貧血」にならないよう、日頃から鉄分を充分補給するためにできることを教えてください。

田中先生:
まず、毎日の食事のバランスを意識すること。貧血予防としては、鉄分やたんぱく質を多く含む食材を積極的に取るようにすると良いと思います。肉、魚、乳製品などの動物性タンパク質をバターで調理することで、効率よく鉄分が摂取できます。納豆に肉類を混ぜて、野菜の上に乗せるだけでも立派なタンパク質サラダになります。また、果物や緑黄色野菜に多く含まれているビタミンCも鉄の吸収をよくしてくれるので、上手に取り入れましょう。食事はゆっくり良く噛んで、水分をしっかり取ることも大切ですよ。


――毎食栄養バランスを考えた食事をとるのが難しい場合は、どうしたら良いのでしょう。

田中先生:
食事を作るのがストレスになってしまっては意味がありませんから、自分の生活スタイルやペースに合わせて、無理なくできることから取り入れてほしいですね。料理する時間をとることが難しい場合は、サプリメントで補給しても良いと思いますよ。出産前後は、本来あるべき栄養が足りていない状態であることを認識して、ママも赤ちゃんも元気に産後を乗り切れるよう、しっかりと栄養補給することが大切です。

また、鉄分は筋肉に貯留されるのでストレッチや筋トレ、散歩などで体を動かすのも良いと思います。軽い運動は気分転換にもなりますから、少しの時間でもママが「自分の時間」を過ごせるよう、家族や周囲の人にも協力してほしいですね。

悩んでいるママへ、伝えておきたいこと

――最後に、これからママになる方や、今まさに育児に奮闘しているママへ、メッセージをお願いします。

田中先生:
母親は、幼い子どもに魔法がかけられる存在です。例えば「あなたにはこんな才能がある」「あなたには素晴らしい未来がある」と小さい頃から前向きな言葉を言い続ければ、子どもは「自分は大切な存在なのだ」と自信を持てるようになり、つらさや苦しさに向き合える強さが自然と育まれていきます。また、「悪いことは良いことの前触れよ」と言い続けて育てれば、困難なことがあってもプラス思考で乗り越えていける力が身に付きます。笑顔で伝える母の言葉は、人生を力強く生き抜いていける魔法となって、子どもの心に響き続けることでしょう。

――子どもが健やかに育つためにも、母親自身が笑顔でいたいものですね。

田中先生;
パートナーや周囲の協力を得て、心のバランスを保つ「心のゆりかご」を作ることができれば、出産後に起こるさまざまな問題にも向き合う気持ちが湧いてきて、きっと乗り越えていけるはずです。「産後うつ」もその一つ。私は、女性は出産を通して新しい自分になれると思っています。「心のゆりかご」を手に入れて、明るい笑顔の未来をつくりましょう。


3回に渡ってお届けした田中理香先生の「産後うつ」の話。セルフチェックや産後の体のケアなども取り入れながら、ぜひ産後の環境づくりの参考にしてみてくださいね。

profile

田中理香(たなかりか)先生
1987年杏林大学医学部卒業。東京医科大学精神神経科を経て英国に渡り、ロンドン、タビストッククリニック児童・思春期部門にて研修。ユング派分析家国際資格取得。帰国後は医療法人社団新光会 不知火病院での勤務を経て、2002年に筑紫野市でスタジオリカクリニックを開院。

英国での経験から周産期ケアの重要性を感じ、産前産後のママやパパに向けた講演活動や地域の保健師や助産院などの連携強化にも積極的に取り組んでいる。

〈スタジオリカクリニック〉
https://www.rikaclinic.jp/

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