第3回 食物アレルギーの予防法や治療法

第3回 食物アレルギーの予防法や治療法

きちんと知って上手につき合うための食物アレルギーの話


食物アレルギーについて知っておきたい基本のあれこれを、食物アレルギー研究の第一人者として知られる国立病院機構福岡病院小児科の医師・柴田瑠美子(しばたるみこ)先生にわかりやすく解説していただいています。今回は、食物アレルギーの予防法や治療法についてお聞きします。

食物アレルギーを予防する方法はありますか?

今のところ、食物アレルギーにならないための確実な手だてはありません。

前回もお話しましたが、妊娠している時に、「子どもが食物アレルギーにならないように」と乳製品などのアレルゲンを摂らないようにするお母さんもいらっしゃるようですが、母親の食と子どものアレルギーとの因果関係はないという結果が出ています。

アレルゲンとして代表的な食品である鶏卵や牛乳、魚などには良質のタンパク質が豊富に含まれていますので、妊娠中にこれらの食品を食べないとなると、むしろお母さんや胎内の子どもの栄養不足の方が心配ですので、きちんと栄養を摂ってくださいね。

現在行われている食物アレルギーの主な治療法にはどのようなものがありますか?

卵が食べられない人は、肉や魚、大豆などでたんぱく質を、
牛乳が飲めない人は、大豆や納豆、小魚などでカルシウムを摂りましょう。


食物アレルギーを完治させる治療法も、今のところはまだありません。
主な治療としては、1つはアレルギーを発症した時に、その症状を改善させる治療。もう1つは、日頃からアレルギーの発症を抑えたり症状を軽くしたりするための抗アレルギー薬の服用です。いわゆる「対症療法」といわれるもので、どれもアレルギーを根本的に治す治療ではありません。

食物アレルギーと上手につきあうためには、原因となる食品を食べないことが大切です。
最近では、含まれるアレルゲンをわかりやすく表示している食品や、アレルゲンを除去してもおいしくいただける加工品などもかなり増えてきました。親御さんにとってはとてもありがたいことだと思います。

この食事療法の際にぜひ気を付けてほしいのが、アレルゲンを除去したことによる栄養不足。鶏卵や牛乳、大豆製品にはタンパク質が、牛乳にはさらにカルシウムも豊富です。魚にはビタミンDが多く含まれています。
どれも成長に欠かせない大切な栄養素なので、食物アレルギーによってこれらの食品を摂れない場合は、他の食品で栄養素を補うようにしてください。

最近の治療法でよく聞く「経口免疫療法」とはどんな治療法ですか?

現在、“アレルゲン食品を食べて治す”という考えが出てきています。アレルゲン食品を完全に除去を続けるのでなく、年齢によっては食べられる食品や量を医師による「経口負荷試験※」で確認してもらい、安全な量を食べていくことが治療になると考えられています。
※アレルギーが確定しているか疑われている食品を単回、または複数回に分割して摂取させ、症状の有無を確認する検査のこと。①原因食物の確定診断、②安全に摂取できる量の決定または耐性獲得の診断のために行う。

「経口免疫療法」とは、最近注目されている積極的な治療法で、「経口負荷試験」で症状が出ることが確認されたアレルゲン食品を毎日少しずつ継続して摂取し、増量していき、徐々に体内の免疫力を高めていく方法です。
私も、多くの牛乳アレルギーのあるお子さんにこの治療を行い、一定の効果を得ています。

ただ、「経口免疫療法」は、治療中に重いアレルギー症状である「アナフィラキシーショック」を起こす危険性があります。さらに、治療中はそのアレルゲンを食べれるようになっても、治療を終えた後、その食品を食べない時期があると、再びアレルギー症状が出てしまうことも少なくありません。「経口免疫療法」には医師の徹底した管理が必要なので、家庭で安易に行うのは絶対に避けてください。

食物アレルギーは治るのでしょうか?

食物アレルギーの子どもの8〜9割は、15歳くらいまでに治ります。成長とともに体内の免疫機能が上がり、アレルゲンに対して「耐性」ができるからです。つまり、食物アレルギーの多くは自然治癒するのです。

お子さんが食物アレルギーと診断されると、親御さんは大きなショックを受けます。でも、必要以上に心配することはありません。「いつか治るんだから」と大らかにかまえて上手に付き合っていってくださいね。
親の不安や心配は知らず知らずのうちに子どもに伝わってしまうもの。子どもを支える大人がまず、前向きになることが大切です。

次回は、子どものアレルギーの不安を少しでも取り除くために、日頃から親が心掛けておきたいことについてお聞きします。
「第4回 アレルギーを持つ子どもの親が心掛けておきたいこと」はこちら

profile

柴田瑠美子(しばたるみこ)先生

医学博士、日本アレルギー学会指導医、国立病院機構福岡病院小児科非常勤医師、中村学園大学栄養科学部客員教授。九州大学医学部を卒業後、九州大学医学部講師、国立病院機構福岡病院小児科医長を経て現職。食物アレルギー研究の第一人者として全国的に知られる。著書に「国立病院機構福岡病院の食物アレルギー教室」(講談社)など。