アレルギーっ子の子育て 第12話:我慢させることが多かった、長女のこと
小麦と卵の食物アレルギーとアトピー性皮膚炎にぜんそく。3つのアレルギー症状を抱えた息子を育てあげたお母さんの奮闘記と先輩ママとしてのアドバイスです。
わが家には、このコラムに書いてきた息子と、4つ年上の娘がいる。
息子は小さい頃からぜんそくで入退院を繰り返していたし、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎があったため、私は毎日息子の世話に追われていた。
入院時は仕方ないとしても、通常の生活でも息子の食事の準備をしたり、スキンケアや薬を飲ませたりすることに時間がとられていたのだ。
そのため、娘にはとてもさみしい思いをさせていたと思う。娘は親に迷惑をかけないようにいい子でいたから、ますますほったらかしにしていた気がする。今も、思い出すと申し訳ない気持ちになる。
例えば、食べ物は息子に合わせることが多かった。
娘は、ケーキやクッキーが大好き。でも、息子が小麦と卵のアレルギーで食べられないので、おやつは和菓子やおせんべいなどが多かった。私も息子も、あんこたっぷりの和菓子が大好きだったけれど、娘は嫌いだった。ケーキやクッキーを食べさせてあげる機会がとても少なかったのも、娘に申し訳なく思っていた。
今でもよく覚えている出来事がある。
息子は、2歳の時に何度目かの入院をした。その2日後に、当時幼稚園の年長だった娘が発熱。咳もひどかったので、夫が娘を受診のために、息子が入院している病院へ連れてきた。
息子の付き添いを夫に任せて、外来に娘を連れて行くと、なんと肺炎になっていて「入院した方がいい」と言われた。
息子ほどぜんそくはひどくなかったが、娘もアレルギー体質で気管支が弱い。でも、娘が入院するのは初めてだった。
ベッドを2つ並べて、3人で合宿のような入院生活が始まった。夫の両親と同居していたので、親子3人だけの遠慮がない生活も初めてだった。
入院慣れしている息子は、発作がおさまると、医師や看護師に対して愛想よくふるまっていた。一方、娘は「○○ちゃん(息子)のお姉ちゃん」と声を掛けられても、ぶすっとしていた。
病院の食事は「まずい」と言ってほとんど食べない。
点滴の針を手に刺しているのだが、毎日のように「痛い、痛い」と言う。看護師さんもわかった上で細かに対応してくれたが、「針はちゃんと刺さっているし、痛いことはないと思うけれど、気持ちの問題でしょう」と言われた。
トイレに行く時は点滴台を引いて行くのだが、息子がいるので娘は一人で点滴台をひいてトイレに行っていた。すると、娘がバランスを崩して支えきれず、2回連続で点滴台を倒してしまった。看護師さんから「お姉ちゃんの時もトイレは付き添ってあげてください」と言われ、娘がトイレに行く時は娘と息子の点滴台2つをガラガラと引いて、3人でトイレに行った。
食事を息子に食べさせながら娘に「ちゃんと食べなさい」と言い聞かせたり、2人ともに吸入を1日に数回させないといけなかったりで、私は並べたベッドを行ったり来たりしていた。
2人の世話が大変で、娘が言うことをきかないから叱ったりもした。結局娘は、最後まであまり笑顔も見せないまま退院となった。ぶすっとしてはいたが、弟に対しては優しく接していた。息子もお姉ちゃんが大好きだから、一緒に入院できたのがとてもうれしかったようだ。年長で動きたい盛りの娘には、退屈でつらい入院生活だったのかなと思っていた。
ところが、家に帰って娘と話をすると「入院生活はとても楽しかった」と言う。「えー、あんなにぶすっとしていたのに」と思ったが、娘は私がずっとそばにいたのがすごくうれしかったのだそうだ。
日頃我慢していたから、思いきりわがままを言って私に甘えたかったのかなと思った。
娘は、感情表現がそんなに豊かではないのでわかりにくいのだが、今も「あの入院は楽しかった」と言うくらいだから、よほどいい思い出になっているようだ。
娘は、いつも何も言わずにいい子でいてくれた。いつも「お母さんは弟の世話で大変だから」と考えてくれていた。それに私が甘えていたのだ。
あの3人での入院生活は毎日がドタバタですごく大変だったが、3人で暮らしていたようで面白かった。
同じくアレルギーっ子の友人にも、みんなきょうだいがいた。アレルギーっ子のきょうだいはみんな、親に心配をかけないような“いい子”が多かった。
食べ物も、やはりアレルギーのある子に気を遣って、我慢していたことも多かったようだ。みんなきょうだい仲がよかったから弟や妹の体を心配してはいたが、「お母さんは、自分よりアレルギーのある子の方が心配なんだろう」と思うのは共通しているようだ。
入院前の娘は、幼稚園生にもかかわらず、入退院を繰り返している弟をいつも気遣って優しく面倒を見てくれる、いいお姉ちゃんだった。娘はいつも弟のことを心配して、自分が食べるものや弟が食べるものもすごく気を付けていた。小学校の時も、弟の教室まで様子を見に行ってくれていた。
娘は、優しく気遣いができる子に育った。けれど、一番甘えたかった時期に甘えられなかったのはつらかっただろうと思う。
私の気持ちを理解してくれる娘は今、当時を思い出し、笑ってくれる。
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profile
篠澤真喜子(しのざわまきこ)さん
20代の娘と息子を持つ母。乳児のころから食物アレルギーとアトピー性皮膚炎とぜんそくを患っていた息子を育て上げた経験を持つ。その経験を生かして、エフコープの店舗で年4回開催される「食物アレルギー交流会」などで、アレルギーっ子ママの先輩として、今悩んでいるお母さんたちのサポートなどを行っている。