vol.12 めぐりめぐって修学旅行
絵本の紹介でお馴染み「からすのほんや」店主 からすちゃんと嘉麻市在住のイラストレーター maruikoちゃんの「むかし子どもだったあなたへ」
フリースクール「みんなのおうち」の子どもたちが教えてくれる、子どもとのくらしのヒントを、スクール代表のからすちゃんと一児のママmaruikoちゃんがお届けします。
学校での大きな行事の一つに「修学旅行」があります。この時期、不登校の中学生の子どもたちは、修学旅行に参加するかどうか悩んでいるのではないかと思います。
「行くか、行かないか」という選択。修学旅行であっても、日々の学校への登校についても、この二者択一は非常に苦しく悩ましいものでしょう。
不登校中の子どもが修学旅行に参加するのを迷うのは、「自分が行ったことのない場所へ行ってみたい」けれど、「クラスメイトとどう接してよいかわからない」という不安があるからだと思います。とくに、みんなと一緒にお風呂に入ることや食事をすること、お部屋のことや移動の車中の過ごし方については、とても不安に感じています。
修学旅行は、親元を離れ、いつもとは違う生活環境の中で、見聞を広めたり、集団の中でのさまざまな体験をする機会。「不安だからと言って一人で過ごせるようにしてしまうのは、修学旅行とは言えない」「それだったら、ただの一人旅だよ」と、大人はついつい考えますよね。
子どもたちだって、そこは頭ではわかっています。「一人で過ごせたら」とか、「先生と一緒にだったら行けるかもしれない」と要望してくることがありますが、それだけ参加したい気持ちが大きいということではないでしょうか?
ある時、私が運営するフリースクールでもこのような不安を持っている中学生がいました。その子は、「修学旅行にだけ参加して、楽しい時だけ来ると思われるのが嫌だ」と話してくれました。どうしてそう思うのかをたずねると、「まだ学校に通っていた頃、同じクラスの不登校の子が修学旅行にだけ参加した時に、『準備もしないで、修学旅行にだけ来てずるい』と思ったから、きっと自分もみんなにそう思われる」と。
私は、「本当にそうか、確かめておいで」と言いました。そして、「どうしてもみんなと旅を続けることができなくなったら、必ずお迎えに行く」と約束しました。
修学旅行3日目の朝、私はお迎えに行きました。途中で帰ったとなれば、このチャレンジは失敗だったと思われるかもしれません。けれど、この子にとってこの体験が決して無駄でなかったことは、今のその子を見ればわかります。
自分が相手の努力や苦しさを理解できずに抱いてしまった負の感情。それは、どんなに幼くても巡り巡って自分に返ってくることを知った3日間は、その子のこれからにとって必要な3日間だったと思うのです。
経験は、何ひとつ無駄にはなりません。子どもに不安はあったとしても、行ってみたいという気持ちがあるのならば、少しだけ背中を押してあげる。それも、わたしたち大人の役割なのではないでしょうか。
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
嘉麻市生まれ。子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/
maruikoさん
イラストレーター。福岡県嘉麻市出身・在住。展覧会などで作品を発表する他、さまざまな媒体のイラストやデザインを手がける。山に囲まれた小さな住宅街の小さな家で日々暮らしている。まるやまももこ名義で音楽活動も行っている。2015年に息子が生まれ現在子育て中。
ホームページ:
https://marumomo48.wixsite.com/maruiko