夜空を見上げたくなる絵本『ムーン・ジャンパー』

夜空を見上げたくなる絵本『ムーン・ジャンパー』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑬


子どもの頃、夏の夜の行事に参加するのは、特別な楽しみでした。みなさんはどうですか?
今年の夏も、花火大会やお祭りなど子どもたちが参加できる行事が開催されないことが多いようですね。このような状況ですから仕方ないとわかってはいても、子どもたちはとても残念そうです。今回は、そんな子どもたちに届けたい絵本です。

おうちのまわりを、次第に夜が取り巻いて、満月が現れ、猫がお散歩に出かける頃。4人の子どもたちが、夜の芝生の庭に出てきます。生暖かい夜の風が吹く中で、子どもたちは芝生の上を裸足で踊りまわって、かけっこをします。木に登り、歌を歌い、こわい話もして遊びます。そして、お月さまに向かって、何度もジャンプします。
しばらくして、お母さんが「時間よ」と子どもたちを呼び、子どもたちは少し残念そうな顔をしておうちに帰っていきます。ふかふかの枕と、真っ白の整えられたベッドに横たわり、お月さまに「おやすみなさい」と言って眠りにつく子どもたち。さて、どんな夢を見るのでしょうね。
夜の庭をやさしく照らす満月の光の中で、風で揺れる髪が頬にあたる感覚や、ウインドーチャイムが鳴る音。足の裏をくすぐる芝生の感触。お昼間よりも研ぎ澄まされた子どもたちの感覚は、夜を特別な時間にしてくれます。

この本を子どもたちと一緒に読んでいると、大人の私も幼い頃を思い出しました。ただ追いかけっこをしているだけなのに、楽しくて、息ができないほど大笑いしていたこと。芝生の上を裸足で歩くと、ちょっとひんやりして、こそばゆい感覚。草の上に寝転び、ころころと転がって、背中がチクチクしたり、草の青い匂いがしたり。祖母がシーツにパリっとのりを貼ってくれた布団に横になると、お日さまの匂いがして気持ち良かったり。そういうことが、今思えばとても幸せなことで、「生きていること」の塊みたいに喜びの中で過ごした、幼い頃。そんな懐かしさを思い返す時間をくれる、すてきな作品です。

このお話のように、五感を研ぎ澄まして、自分たちで心が弾む夜を創ってみるのも良いかもしれませんね。満月の夜は、みんなもムーン・ジャンパーになって、お月さまに向かって跳ねてみるのはいかがでしょうか?

今回ご紹介した本

『ムーン・ジャンパー』
文:ジャニス・メイ・ユードリー
絵:モーリス・センダック
訳:谷川俊太郎
偕成社

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芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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