子どもに本を読んであげたくなる絵本『このほんよんでくれ!』

子どもに本を読んであげたくなる絵本『このほんよんでくれ!』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑩


何年も前に、あるお母さんから「『子どもに絵本を読んであげることはいいことだ』って言われるけれど、私は幼いころ絵本を読んでもらったことがなくて、どう読むのが正しいのか、読む絵本はこれでいいのかとか、いろいろ不安になるんです」と相談をいただいたことがあります。もしもそのときにこの本があったら、きっとそのママに手渡していたと思う作品を、今日はご紹介したいと思います。

主人公のオオカミがナラの木の下でお昼寝していると、楽しそうな笑い声が聞こえてきます。そっと近づくと、人間の親子がベンチに座って、お父さんが子どもに絵本を読んであげていました。オオカミは、いつもなら二人を食べてしまうところなのですが、オオカミは聞こえてくる絵本のおはなしの続きが気になって、食べるのを我慢します。ベンチの陰でそっとお話を聞いていたのですが、そのお父さんは絵本を読むのを途中でやめて、ふたりはおうちに帰ってしまいました。おはなしを最後まで聞きたかったオオカミ。お父さんがうっかり落としていった絵本を見つけて拾い、続きを読もうとしますが、オオカミは字が読めませんでした。

オオカミは、森の動物たちに絵本を読んでくれるように頼みますが、みんなオオカミに食べられてしまうと考え、逃げ出してしまいます。そんな中、ある小さなウサギが声を掛けてきます。オオカミはウサギと「絶対に何もしない」という約束を交わし、絵本を読んでもらえることになりました。オオカミは気持ちの良い草の上に寝そべって、絵本を読んでもらいました。翌日も同じ場所で絵本を読む約束をしたウサギを、周囲の動物たちは「きっと食べられちゃう」と心配しますが、ウサギは「約束を守りたいんだ」と言います。

ウサギは約束の場所に行き、「もう一回!」と繰り返すオオカミの願いに応えて、何度も絵本を読みました。しばらくすると、オオカミはウサギにあるお願いをします。さて、どんなお願いだったと思いますか?読者は、ウサギがひょっこり食べられてしまうのではないかと、ハラハラさせられているうちに、おはなしの世界に思わず引き込まれてしまいます。

オオカミが絵本を読んでもらえるとわかった時に、うれしくて飛びはねる姿や、それをウサギにたしなめられた時に素直にウサギの言うことを聞き、おりこうさんに座る姿は、まるで絵本が大好きな子どもそのもの。

この絵本は、「絵本を読んでもらうこと」がこんなにもうれしく、幸せなことであり、読み手と聞き手の距離を近づけ、あたたかい関係を生む力を持っていることを私たちに伝えてくれます。そして、最後のページの動物たちの様子は、そういう幸せな時間の向こうに待っている、さらなる展開を示してくれているようにも感じます。

「『子どもに絵本を読むこと』は、『幸せなこと』なんじゃないかな? そして、絵本を読むことであなたが今育んでいる未来は、きっと素敵に輝いていますよ」って、あのときのママに伝えたいな。

今回ご紹介した本

『このほんよんでくれ!』
作:ベネディクト・カルボネリ
絵:ミカエル・ドゥリュリュー
訳:ほむらひろし
クレヨンハウス

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芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/