正しく知って、しっかり理解。不登校のこと 第2話
さまざまな心理的ストレスから学校に行けない子どもが増える、5月の連休明け。この時期だからこそ知っておきたい不登校についてのあれこれを、一般社団法人「不登校支援センター」福岡支部カウンセラーの永島裕(ながしまゆう)さんにお聞きしています。1話では、意外と知らないことも多い不登校の基本的なことについてお伺いしました。2話では、不登校の子どもとのコミュニケーションや、不登校を防ぐための子どもへの接し方などについてご紹介します。
不登校の前兆とも考えられる、いくつかの言動
子どもの日頃の生活態度に、不登校の前兆と考えられる行動などはありますか。
永島さん:
「頭やお腹が痛い、下痢をするなどの体調不良を訴えたり、習い事や部活を休みがちになったり、あるいは辞めてしまったりという時は注意してください。学校や先生に対してグチや悪口を言うなどのネガティブな話が多くなった時も同様です。このような状況が必ずしも不登校と結びつくわけではありませんが、不登校の子どもを持つ親御さんが、『後になって考えてみれば、確かにそういう兆候があった』とおっしゃるケースは少なからずあります」
学校に行けないことに罪悪感を持つ子ども
不登校の子どもはどんな心理状態にあるのでしょう。学校に行かないことでとりあえず安堵しているのか、それとも不安を抱えているのでしょうか。
永島さん:
「ほとんどの子どもは学校に行かないことに罪悪感があり、家にこもりがちです。『休めて楽になった』と思っているわけではありません。
不登校の子どもがマンガやゲームなどに没頭してしまうのは、他のことに夢中になることで、罪悪感や不安感を払拭するためです。同じような感情から、一生懸命に家の手伝いをしたり勉強したりする子どももいます。
2年間にわたる不登校を克服した子どもに、『毎日家でゲームをしていて楽しかった?』と聞いたことがありますが、その子は『ちっとも楽しくなかった』と。『ちゃんと学校に行って、帰ってからゲームをした方が断然楽しい』と言っていました。多くの子どもが同じようなことを口にしています」
徹底的に子どもの話を聞くことが大切
わが子が不登校の状態にある時、親はどのように子どもと接するべきですか?
永島さん:
「子どもを無理に学校に行かせようとしてはいけません。まずは、子どもが何をどう感じているか、徹底的に話を聞くことです。
とはいえ、子どもは自分の思いや感情を素直に表せないもの。そんな時に無理やり聞き出そうとするのは逆効果です。すぐに話ができそうにない時は、焦らずに時間をおいてください。
子どもが、もし『学校に行きたくない』という思いを抱えていた場合、本人は『学校に行けない理由を親に話せば、親がそれを解決しようとするかもしれない』とも考えます。例えば、『宿題が終わっていないから』と答えれば、親に『じゃあ今からすればいい』と言われるのではないか、と。
子どもが『学校に行きたい』という気持ちが高まってきた場合は、一緒に解決策を考えるのも大切です。しかし、学校への抵抗感が強い時、多くの子どもは親が問題を解決して、学校に行かせようとすることを恐れていますので、良かれと思って解決策を提案するにも注意が必要なんです。
一方で、『学校に行きたくない』が、イコール『休みたい』というわけではないこともあります。その子が、なぜ、どういう思いで『行きたくない』と言っているのか。親御さんは、それを探り、子どもの意思を尊重して、常に寄り添う姿勢が大切です」
場合によっては「傾聴」のトレーニングを
永島さん:
「親御さんが子どもの話を徹底的に聞くためにおすすめなのが、『傾聴』という手法です。傾聴にはいくつかのコツがあるのですが、まずは、話をちゃんと聞いていることが子どもに伝わるよう、頷いたり相槌を打ったりを忘れないこと。
話を否定せずに受け止めたり、質問したりする声掛けも大切です。子どもが『休みたい』と言ったら、『そう、休みたいんだね』と子どもの言葉を繰り返します。子どもの話に対して、『それってこういうこと?』『こういう意味かな?』と、理解を深めるための質問をする、というようなことです。
傾聴は意外と難しく、親御さんは子どもを心配するあまり、話につい口を挟んでしまいがち。当センターもそうですが、不登校の子どもの専門機関では、親御さんを対象に傾聴のトレーニングをしているところもあります」
不登校はストレスによる「疲れ」
永島さん:
「親に促されたり叱られたりして、一旦学校に通い始めたものの、しばらくするとまた休む。行ったり休んだりを繰り返す『さみだれ登校』もよくある不登校のパターンですが、これも子どもにとっていいことでない場合もあります。学校に行けた成功体験ではなく、ダメだったという失敗体験を増やすことになる場合があるからです。
不登校は、ストレスによる『疲れ』でもあります。しばらく休んで疲れがとれても、その子の疲れやすい性格は変わらないのです。その子が何にストレスを感じているかを理解し、その子自身がストレスにうまく対処できる力を取り戻していく、あるいは高めていくことが不登校の克服につながるのです」
とにかく子どもを褒めてあげること
不登校を予防する方法はあるのでしょうか。
永島さん:
「日頃から、子どもの自己肯定感を高めるような関わりがとても大切です。否定的な言葉はできるだけ使わず、できていることをしっかり褒めること。仮にひとつ否定したら、その10倍は褒めてあげるようにして、その時に子どもがどんなことを褒めるとうれしそうにするかも見ておきましょう。
日頃からそのように子どもと接していると、もしも学校で辛いことがあっても、子どもは親御さんにしっかりと心を開いて話せるでしょう。普段からそのような信頼できる親子関係を築いておくことはとても大切です」
親だけで抱え込まず、ぜひ相談を
最後に、不登校の子どもを持つ親御さんへのメッセージをお願いします。
永島さん:
「親御さんの中には、カウンセリングをしていて『自分の育て方が悪かった』と自責の念にとらわれたり、『この子は将来どうなってしまうんだろう』と不安に考え、思い詰めたりする方が少なくありません。でも、不登校は克服できますし、学校へ行けない子どものための、フリースクールなどの教育機関も増えています。そもそも不登校になったからといって、子どもの未来がそこで失われてしまうことは絶対にありません。『学校に行く』をゴールにしないことも大切です。
親御さんが一人で思いつめて悩むと、どうしてもネガティブな思考に陥りがち。まずは第三者や信頼できる方へ相談してみてください。ご自分の時間を作ってみるのもいいと思います」
行き場のない不安や悩みを抱えるたくさんの子どもたち。不登校への正しい理解が、彼らが少しでも元気を取り戻し、明るい将来を考えられるようになるための大きな一歩です。
profile
永島裕(ながしまゆう)さん
一般社団法人「不登校支援センター」福岡支部カウンセラー。心理カウンセラーとして、社会人のカウンセリングやコーチング、一般企業での新人育成相談なども行う。
不登校支援センター:https://www.futoukou119.or.jp/
不登校支援センター総合事務局
TEL 0120-05-9445(受付時間/平日9:00〜18:00)