知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第5回 貧困は個人の問題?それとも社会の問題?】

知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第5回 貧困は個人の問題?それとも社会の問題?】

子どもの貧困問題に取り組んでいる筑紫女学園大学の大西良(おおにしりょう)先生に、これまでの活動を通して感じたことや身近なエピソードを交えながら、貧困が子どもたちにもたらすさまざまな不利の連鎖と生きづらさについて紹介するコラムです。第5回のテーマは「貧困は個人の問題?それとも社会の問題?」。子どもの貧困問題の今と未来を一緒に考えてみませんか。

貧困の原因を椅子取りゲームに例えると…

これまで、貧困が子どもたちの心や将来に与える影響について述べてきました。では、なぜ貧困問題は起きるのでしょう。原因を考えるとき、椅子取りゲームに例えるとわかりやすいです。

10人の参加者に対して8つの椅子が用意されているとします。音楽が鳴っている間は椅子の周りをまわり、音楽が止まると座ります。しかし、椅子は8つしかないため、2人は座ることができません。

ここで、座れなかった人に注目すると、「なぜこの人は座れなかったのか?」と考えるようになります。「音楽に集中していなかった」「動きが遅かった」などの理由が挙げられるでしょう。このように、座れなかったのは個人の問題であると捉え、「もっと努力すればよかった」「本人の責任だ」と考えるようになります。これが自己責任的な思考であり、解決策として「本人がもっと頑張るべきだ」となるのです。

重要なのは「椅子の数」を増やすこと

貧困についても同じことが言えます。貧困に陥った人に注目し、「なぜこの人は貧困なのか?」と考えると、「努力が足りない」「怠けている」など、個人の責任として片付けられがちです。しかし、貧困層が常に一定数存在する現実を考えると、社会における「椅子の数」が足りないことが根本的な問題ではないでしょうか。
例えば、雇用機会が限られていたり、教育や医療の格差があったりすることで、努力だけではどうにもならない状況が生まれます。どれだけ頑張っても、椅子がなければ座ることはできません。

貧困の解決策を考える際には、単に「個人の努力」を強調するのではなく、社会の仕組みそのものを見直すことが重要です。教育の充実、最低賃金の引き上げ、福祉制度の整備など、「椅子の数」を増やすための取り組みが求められます。

何に注目するかによって、貧困の原因と解決策の捉え方は大きく変わります。ただ個人の責任を問うのではなく、社会の構造的な問題として考える視点が必要です。

参考文献:湯浅誠「どんとこい貧困!」理論社 2009年

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大西 良(おおにし りょう)先生

大西 良(おおにし りょう)先生

筑紫女学園大学 人間科学部 人間科学科 心理・社会福祉専攻 准教授
筑紫女学園大学 大学院 人間科学研究科 准教授

大学に勤めるかたわら、福岡県筑豊地区の小・中学校でスクールカウンセラーとして勤務。また、子ども食堂の支援や夜回り活動など、子どもの貧困問題にも取り組んでいる。

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