
【第6回(最終回)子どもの貧困問題に周りの大人ができること】
子どもの貧困問題に取り組んでいる筑紫女学園大学の大西良(おおにしりょう)先生に、これまでの活動を通して感じたことや身近なエピソードを交えながら、貧困が子どもたちにもたらすさまざまな不利の連鎖と生きづらさについて紹介するコラムです。第6回(最終回)のテーマは「子どもの貧困問題に周りの大人ができること」。子どもの貧困問題の今と未来を一緒に考えてみませんか。
一度陥ると抜け出しづらい「貧困の連鎖」
子どもの貧困問題は、単にその子ども個人の問題にとどまるものではありません。その背景には、親や保護者など家庭を支える大人たちの貧困問題が深く関わっています。子どもは、自ら働いて収入を得て生活することができず、日々のくらしの多くは、家庭の経済状況に大きく左右されるからです。
経済的に苦しい家庭では、十分な食事や医療が提供されなかったり、学習の機会が制限されたりすることもあるでしょう。塾や習い事に通えず学力や体験の差が広がり、進学やその先にある就職も不利になりがちです。そのため、貧困状態は親(保護者)から子へ、さらにはその子どもへと続きやすく、一度陥ると抜け出すのが難しくなります。つまり、「貧困の連鎖」が起きてしまうのです。
放置は社会全体の損失に
このような状況を放置することは、社会にとっても大きな損失となります。すべての子どもたちが自分の将来に希望を持てる社会でなければ、次世代を担う人材は育たず、地域社会の活力や安定も失われていくでしょう。
子どもたちの可能性が閉ざされてしまうことは、個人の問題を超えて、社会全体に影響を及ぼす深刻な課題です。だからこそ、子どもの貧困は「社会全体の問題」として捉え、みんなで解決に向けて取り組む必要があるのです。
「知ること」「関心を持つこと」がよりよい未来への一歩

問題をさらに深刻にしている要因のひとつが、「社会の無関心」です。これまでの連載で取り上げたように、貧困による生きづらさを抱えた子どもたちは、声を上げることが難しい存在です。「自分には関係ない」「実際に見たことがないからわからない」といった無関心な態度は、貧困に苦しむ子どもや大人が支援を受ける機会をさらに遠ざけてしまいます。
だからこそ、私たち一人ひとりが、まず子どもの貧困について「知ること」「関心を持つこと」が何よりも大切です。
例えば、周囲の人と「貧困問題」を話題にして会話するだけでも「知ること」の一歩になるでしょう。また、「子どもの権利(生きる・育つ・守られる・参加する)」1)が守られているかという視点で、子どもたちの「声なき声」を意識することも関心を向ける大事な行動だと思います。
貧困問題に目を向けることで意識が変わり、行動する人が増えれば、社会全体として支え合う仕組みが生まれ、貧困の連鎖を断ち切ることもできるでしょう。私たち全員が当事者として子どもの貧困問題に向き合い、解決に取り組むこと。それが、よりよい未来を築くための大きな一歩になるはずです。
※注1)福岡県児童虐待防止推進ホームページKOMORI
https://kodomonofukushi.pref.fukuoka.jp/children-rights/
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大西 良(おおにし りょう)先生
筑紫女学園大学 人間科学部 人間科学科 心理・社会福祉専攻 准教授
筑紫女学園大学 大学院 人間科学研究科 准教授
大学に勤めるかたわら、福岡県筑豊地区の小・中学校でスクールカウンセラーとして勤務。また、子ども食堂の支援や夜回り活動など、子どもの貧困問題にも取り組んでいる。