知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第4回 貧困がもたらす生きづらさ③「希望の貧困」】

知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第4回 貧困がもたらす生きづらさ③「希望の貧困」】

子どもの貧困問題に取り組んでいる筑紫女学園大学の大西良(おおにしりょう)先生に、これまでの活動を通して感じたことや身近なエピソードを交えながら、貧困が子どもたちにもたらすさまざまな不利の連鎖と生きづらさについて紹介するコラムです。第4回のテーマは「希望の貧困」。子どもの貧困問題の今と未来を一緒に考えてみませんか。

「塾に通いたい。でも私は大丈夫!」と葛藤する中学生

私が定期的に実施している、ひとり親世帯の食料支援活動で、中学2年生の春菜さん(仮名)から次のような話を聞きました。

私は最近、学校の友達みんなが通っている塾に興味を持つようになりました。「塾の先生の説明がわかりやすい!」「成績が上がった!」と友達が話しているのを聞くうちに、私もその塾に通えたらいいなと思ったんです。でも、私には一つ大きな問題がありました。それは家の経済状況です。

私が小学生の時に父が他界し、母と二人暮らし。母がパートを掛け持ちして家計を支えてくれています。生活費のやりくりが大変で、新しい服や外食は特別な日にしか楽しめません。そんな状況だから、塾の月謝を払う余裕なんてないことはわかっていました。

それでも、私は一度でいいから塾の雰囲気を体験してみたいと、無料の体験授業に申し込むことにしました。母が「春菜が行きたいなら、一度見学に行ってみよう」と優しく背中を押してくれたのです。

体験授業の日、緊張しながら塾の教室に足を踏み入れると、明るく優しい先生や、楽しそうに授業を受ける生徒たちの姿が見えました。先生の説明はとても具体的でわかりやすく、「こうやって考えるといいのか!」と何度も感心しました。あっという間に授業が終わり、こんなに楽しく勉強できるのなら、毎週でも通いたい!と心の中で思いました。


しかし、授業後に塾のスタッフからパンフレットを渡された瞬間、私は驚いて動けなくなりました。週に3回の授業で月額3万円以上。一生懸命働いてくれている母に、こんな金額をお願いするなんて絶対に無理だと思いました。私は咄嗟に「大丈夫です!私、一人でも勉強できるから!」と笑顔で答えました。母は私の隣で涙を流していました。

所得の格差が希望の芽を摘む

勉強したいと踏み出そうとした一歩を、経済的な事情で断念せざるを得なかった春菜さん。心の内を想像すると言葉になりません。そんなわが子をすぐ横で見ていた母親の気持ちを思うと、私は胸が張り裂けそうになりました。

文部科学省が公開している調査研究報告書(※)によると、所得の低い世帯ほど大学進学率が低いというデータがあります。塾などの子どもの教育に投資する余裕がないため、結果として、学歴による生涯賃金の格差につながることが考えられます。

このことからも、貧困は、子どもの将来の夢や希望にまで大きな影響を与えると言えるでしょう。希望を失う経験が重なると、やがて目標に向かって頑張る力も奪われていきます。勉強への意欲を持ち始めた春菜さんのような子を支える取り組みが今求められています。

※「家庭の経済状況・社会状況に関する実態把握・分析及び学生等への経済的支援の在り方に関する調査研究」
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1398333.htm

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大西 良(おおにし りょう)先生

大西 良(おおにし りょう)先生

筑紫女学園大学 人間科学部 人間科学科 心理・社会福祉専攻 准教授
筑紫女学園大学 大学院 人間科学研究科 准教授

大学に勤めるかたわら、福岡県筑豊地区の小・中学校でスクールカウンセラーとして勤務。また、子ども食堂の支援や夜回り活動など、子どもの貧困問題にも取り組んでいる。

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