知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第3回 貧困による「関係性の欠如」】
子どもの貧困問題に取り組んでいる筑紫女学園大学の大西良(おおにしりょう)先生に、これまでの活動を通して感じたことや身近なエピソードを交えながら、貧困が子どもたちにもたらすさまざまな不利の連鎖と生きづらさについて紹介するコラムです。第3回のテーマは「貧困による『関係性の欠如』」。子どもの貧困問題の今と未来を一緒に考えてみませんか。
貧困とは“溜め”のない状態のこと
貧困と聞いて、あなたはどんな状態を思い浮かべるでしょうか。東京大学特任教授であり、貧困問題に造詣の深い湯浅誠(ゆあさまこと)氏は、貧困は“溜め”のない状態と表現します(※)。
※参考文献:湯浅誠「貧困襲来」山吹書店 26―30頁 2007年より
“溜め”には2つの働きがあると述べる湯浅氏。1つ目は外からの衝撃を吸収する働きです。すなわち、“溜め”が大きいほど、強い衝撃から身を守り、耐えることができます。2つ目は、エネルギー源としての働きです。“溜め”が大きければ大きいほど、困難や逆境などが続いても、それらを跳ねのける力になります。そして、“溜め”は、主に以下の3つに分けられるとしています。
“溜め”に包まれている人
①金銭の“溜め”
貯金は失業などの衝撃を吸収し、仕事を探すエネルギー源となります。
②人間関係の“溜め”
周囲と良好な人間関係を築いていれば、困難に直面したときに家族や友人などからサポートを受けることができます。
③精神的な“溜め”
気持ちの面の溜めは、自分に自信があることや気持ちにゆとりがあることです。精神的な“溜め”があれば衝撃に落ち着いて対応できます。
貧困とは、欲しいものが買えないという問題にとどまらず、人生において遭遇するさまざまな困難や逆境を克服する力を削ぐものでもあると言えます。
子どもたちの自立を阻む「関係性の欠如」
子どもたちにとって大きな生活課題となるのが、人間関係の溜めの弱さ、すなわち「関係性の欠如」です。例えば、友だちと遊びに出掛ける費用、話題になっている本や同じお菓子を購入する費用、習い事に通う費用などが賄えないことで、友だちなど外部との接点が少なくなり、孤立もしやすくなるでしょう。孤立は「自立」を阻む要因となります。
なぜでしょうか。その理由を解くカギが、社会福祉分野で近年注目されるようになった『依存的自立』という概念にあります。
福祉サービス利用者の自立生活において、可能な限り自力でという『自助的自立』が従来の考え方。一方『依存的自立』とは、障害の有無や生活困窮の程度にかかわらず、自分らしい生き方を自己の責任において決定し、サポートを得ながら実現していこうとする姿勢です。
依存先が多様なほど「自立」へのハードルは低くなると言え、「自立」には他者との関係構築が不可欠なのです。
貧困によって引き起こされる、溜めの弱さや関係性の欠如は、自分自身の人生を生きるという尊厳を脅かし、「自立(依存的自立)」に大きな影響を与えることを、私たちは今一度認識する必要があるでしょう。
子どもたちが安心して周囲に依存する環境を整え自立をサポートすることも、私たち大人の務めではないでしょうか。
profile
大西 良(おおにし りょう)先生
筑紫女学園大学 人間科学部 人間科学科 心理・社会福祉専攻 准教授
筑紫女学園大学 大学院 人間科学研究科 准教授
大学に勤めるかたわら、福岡県筑豊地区の小・中学校でスクールカウンセラーとして勤務。また、子ども食堂の支援や夜回り活動など、子どもの貧困問題にも取り組んでいる。