これから新しい命を迎えるご家庭にも!『みんなあかちゃんだった』
書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑯
長子だった私。今でも忘れられない幼い頃の、朝の記憶がある。家族みんなで朝食を食べている時に、生まれて間もない妹の泣き声がした。その声に、家族みんなが妹の方を向いて反応した。その時の、とてつもなく寂しかった感覚を、今でも鮮明に覚えている。
大人になって、甥っ子に弟ができた時、赤ちゃんに会いに行って産院から帰った彼が、おやつのぶどうパンを口いっぱいにほおばりながら泣いた時には、彼の切ない気持ちが痛いほどわかって、一緒に泣いた。
日々を重ねれば、きょうだいのできた心強さやうれしさが湧いてくるのでしょうが、やっぱり最初はちょっぴり寂しいものです。ですから、これから新しい命を迎えるご家庭の本棚には、こんな本も置いていただきたいのです。
「世界じゅうに たくさんの ひとがいるけれど さいしょは…みんな あかちゃんだった」
という言葉から始まるこのおはなし。
この絵本の中には、生まれてから2カ月、3〜4カ月、4〜5カ月…と、3歳くらいまでの間のそれぞれの時期に分けて、赤ちゃんのさまざまな行動やできるようになってくること、興味のあることなどが描かれています。
例えば4〜5カ月。
「スープをのんでいて ひとと めがあうと… ニーッと わらうので たべものがでてしまう」
とか、1歳くらいのページには、
「ひとのカサブタをとる」
「足の したの ハンカチをとって ころぶ」
など、「そうそう!」「あるある!」という、赤ちゃんに見られる愉快な行動や様子が愛情いっぱいに描かれています。
これからお兄ちゃんやお姉ちゃんになる子どもたちは、自分も同じようにやっていたかどうかを読み手に尋ねながら、一つひとつ指をさしつつ楽しんでくれます。これから生まれてくる弟や妹も、自分と同じことをするのだと知れば、きっと寂しさも和らぐことでしょう。
お子さんが大きくなったママたちからも、たまに読むとお子さんの幼い頃のことをいろいろと思い出して、「今日は、『宿題しなさい!』って怒らないでいようと思うんですよ」なんていうお声もいただいたことがあります。
最後のページの言葉は、この世の中には、上も下もなく、難しい争いごとまでも全部消し去ってくれるような確かさを感じます。人は誰でも、「生きること」そのものだった時期があって、どんな命もかけがえのない大切なもの。
絵本を通して、お兄ちゃんやお姉ちゃんになるお子さんと一緒に赤ちゃんを迎える心の準備をする。そんな、あたたかな時間を過ごしていただけることを願っています。
愛された子は愛を知り、やがて誰かを愛することができると思うのです。だからきっと大丈夫。幼かった私も、今は妹がいてくれて良かったって、心から思っていますから。
今回ご紹介した本
『みんなあかちゃんだった』
作:鈴木まもる
小峰書店
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/