いつか、誰かとさよならする時のために『ねがいごと』

いつか、誰かとさよならする時のために『ねがいごと』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(34)


私には忘れられない言葉があります。大学の入学式の学長先生の言葉。「文学とは、生きるとは何か、死とは何か、愛するとは何か、そういうものを突き詰めていく学問である」と。
私が子どもに手渡す文学の世界は、明るく楽しいものに偏らないようにと、常々心がけている。奥深く、ゆっくり、じっくりと静かに生命というものと向き合う時間は、大人だけでなく子どもたちにも必要なのではないでしょうか。

わが家には18歳を超える老犬がいます。近頃では、動きも緩慢になり、寝ていることも多くなりました。想像するだけで胸が締めつけられますが、その時が近づいていることは、否めない事実。こうして死と向き合う時間が与えられているわけだから、この事実を見つめてみたいと思っていました。
そんなときに、この作品と出会いました。主人公のねこのミィも、飼い主のサキちゃんとのお別れの時が近づいていることを知っていました。さよならの時が来たら、誰でもたったひとつだけ『ねがいごと』ができる、と聞いたことのあったミィは、サキちゃんがにっこり笑ってくれるような事を願おうと、目を閉じて考えます。自分のつけたサキちゃんの机の傷が消えると、にっこりしてくれるかな? サキちゃんの髪の毛がスベスベになるといいかな? いろいろ考えた末、ある『ねがいごと』をします。サキちゃんは笑ってくれたでしょうか?

誰かを失った時、生きている私たちはもっと何かできることがあったのではないかと考えますよね。けれど、旅立つ側も、こんなにも私たちを思っていてくれている。そしてその愛が生きている私たちの周りに、優しく溢れている。そんなことを確かめられる作品です。
いつか、誰かとさよならする時に、あなたのそばにこの絵本が寄り添っていてくれることを願っています。

今回ご紹介した本

『ねがいごと』
作:あさのますみ
絵:そのだえり
学研プラス

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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