何度も読みたくなる優しい絵本『あかいかさ』

何度も読みたくなる優しい絵本『あかいかさ』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(35)


5歳のわたしは、ピアノのレッスンが嫌で、ある日家出をしました。先生の厳しさが、意地悪ではなくて、期待や愛情であることは、幼い私には理解できませんでした。家出をしたときの私の荷物は、長靴と傘でした。外はすごく晴れているのにね。
行き先は従兄のおうち。商店街を抜けた先で、人通りが少なくなると私は、傘を差してみました。少し寂しく、心細くなったのかもしれません。何の歌だったかは、はっきりと覚えてはいませんが、戦隊ものの主題歌を口ずさんだ記憶があります。傘に声が跳ね返って、少し大きく聞こえてくるのを感じながら、自分で自分を励ましていたように、今は思います。
そんなことを思い出したきっかけになったこの絵本。小ぶりでかわいい絵本です。傘以外は、ほぼモノクロで描かれていて、赤い色がグッと引き立ちます。主人公の女の子は、雨が降り出したので、持っていた赤い傘をさします。すると、次々に動物たちがやってきて、傘に入れてとお願いします。子犬が1匹。子猫も2匹。ニワトリが3羽に、子ウサギ4匹。動物たちは、どんどん増えていきます。みんな、入り切れるかな?
赤い傘は、この子の優しさなのかな? それとも、幼い頃の私のように、この子や他の動物たちの「安らぎ」なのかな? なんて考えます。
そして、大人はいつも、子どもたちにとってこの傘のような存在であり続けなくてはなりません。でも、時には動物たちに紛れて、傘の下に潜り込みたくなりますよね。そんな気持ちも包んでくれるような作品で、つい何度も読みたくなります。
それから、絵本の中には、傘以外にもうひとつだけ、赤いものがあります。なんだと思いますか? ぜひ絵本を読んで確かめてみてくださいね。

今回ご紹介した本

『あかいかさ』
作:ロバート・ブライト
訳:しみず まさこ
ほるぷ出版

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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