子どもの憎まれ口に困っている? そんな時は「愛」で返そう
子育てが楽しくなる話⑨
より良い親子関係をつくるためのプログラム「アクティブ・ペアレンティング」のトレーナー・野口紀子さんが、子育てが楽しくなる話を綴ります。
朝、自分ではなかなか起きて来ず、寝床から「くそばばあ!」と何度も大声でわめく小学校2年生の男の子がいました。お母さんは、「起こしに行くと癖になる」と思い、無視していましたが、日に日にひどくなるので、毎朝のバトルに辟易していました。
小学4~6年生で結成されたあるサッカーチームには、小学校5年生の男子で、随分荒れている子がいました。友だちに石を投げたり、地面をわざと蹴って砂埃をたてたり、失敗した友だちを大声で攻め立てたり。いつも「シネ!」や「バカ!」などの罵声を吐く。見に来ているお母さんたちの間でも、彼の言動は「聞いていられないね」と問題になっていました。
さて、子どもたちがこのように憎まれ口を吐いたり荒れた態度を見せたりするのはよくあることです。そして大人はそれに対して「その言葉は何だ!」「その態度は何だ!」と注意します。しかし、改善されないことがほとんどです。なぜならば、それは単に言葉や態度の問題ではなく、心理的な問題だからです。
なぜ憎まれ口を吐くのか? それは「良い関係を求めているから」です。逆に言うと「良い関係を求めているのに、それが得られないのでわざと嫌な思いをさせるために憎まれ口をきいている」ということです。それには、単なる「反抗」ではなく「どうしてわかってくれないの!?」という怒りやいらだち、傷つき、悲しみなども含まれています。
ですから、その子が本来求めている“愛のある接触”をしてあげると、憎まれ口が収まり、精神的に健康で素直な子どもに変身します。“愛のある接触”とは、温かなハグ、優しい言葉掛け、困っている時の助け、さびしい時の寄り添い、一緒に楽しむ(おなかの底から笑う)などです。
朝起きてこない男の子のお母さんには、「起こしてあげていいですよ。おまけにスキスキ、ムギュ~、チュ~、とかいっぱいしてあげてください」とお願いしました。お母さんが実行するとほどなくして、自分で起きてくるようになりました。
ちなみに、この時「あら、自分で起きたのね!」と言ってあげるのがポイントです。「自分で起きてきて偉いね」と言うと、上から目線になるのでNGです。「お母さんの言う通りにしたのが偉い」というニュアンスになるからです。ですから「自分で起きた」という本人の自立を認める言葉を掛けます。この違いには注意が必要なところです。
サッカーチームのお母さんたちは話し合って、みんなでその子に積極的に言葉を掛けるように努めたそうです。「一生懸命走ってたね」「シュートかっこ良かったよ」「コーチの話、しっかり聞いてたねぇ」「のど渇いてない?」など、ことあるごとににこやかに声を掛けたそうです。すると、彼の荒れた行為も罵声も、次第に消えて行ったということでした。
憎まれ口に対して憎まれ口で返すのでは、全く教育になりません。大人は常に、子どもをより良くリードする立場であることが大切です。
そのためには、「憎まれ口には愛で返そう」を、良い関係づくりをめざす親たちの合い言葉にしたいですね!
profile
野口紀子(のぐちのりこ)さん
心理学をベースに、さまざまな考え方や技法を取り入れて、より良い親子関係をつくるためのプログラム「アクティブ・ペアレンティング」のトレーナー。25年間で延べ5000人以上の親御さんたちに子どもとの接し方などを伝えている。自身も3人の子どもの母。親子関係・人間関係の悩みに寄り添って改善する「トータルファミリーカウンセリング」を開設。「NPO法人ペアレント・スキルアップ福岡」の理事。
◎トータルファミリーカウンセリング
http://www.total-family-counseling.com
◎NPO法人ペアレント・スキルアップ福岡
http://www.ps-fukuoka.jp