vol.26 お手紙

vol.26 お手紙

絵本の紹介でお馴染み「からすのほんや」店主 からすちゃんと、嘉麻市在住のイラストレーター maruikoちゃんでおおくりしている「むかし子どもだったあなたへ」。今回は最終回です。


学校に行くのが苦しいなって思っていた
子どもだった私へ

また明日が来てしまう。
もう二度と目が覚めなかったらいいのに。
そう考えながらお布団に潜り込む。明日学校に行かないって言ったら、家族はみんなまた、悲しい顔をするんだろうな。眠れない。

朝が来る。足音が近づいてきて
「今日はどうすると?」と声がする。答えられなくて、布団を頭から被って丸くなる。「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」心の中で何十回も繰り返す。

みんなが家から出かけた後、仰向けになって息をする。天井を見つめる。学校に行けない私は、生きている必要があるんだろうか。親を苦しめる自分は、悪い子どもだ。私は何で生まれてきてしまったんだろう。生温かい涙が、静かに耳まで流れていく。冷たくて、気持ち悪い。

でもいつか、そんな毎日に、さよならできる日が必ず来る。大人になった私には、それがわかる。あなたの今は、人生という道の途中のできごと。歩きながら通り過ぎていく看板や、バス停みたいに。

親にいろいろ言われたり、勝手に誰かに相談したり、知らない誰かに会わせられたり、そういうのはもうやめてほしいと思っているよね。大人のそういう行動は、あなたが愛おしくてたまらなくて、どうしたらあなたの笑顔を取り戻せるのかわからなくなって困っているんだってことも、大人になった今、ようやくわかるようになってきた。

あれから40年が経って、世の中は変わった。大人の世界だけでなく、子どもの周りもね。

学校に行かなくても、エネルギーを溜めたり、自分を見つめたり、好きなことを追求したり、周りの人たちとの優しいつながりをつくっていけたりする、そういう居場所で日々を大切に過ごす。それってとても大切なことなんだってことに、日本中の人が気づけたんだ。とっても素敵なことじゃない?

あの時、生きることを諦めなかったあなたの勇気に、ありがとうって言いたい。あの日から続く道の先には、色とりどりの花が咲いていたり、包まれるように優しい人に出会ったり、ワクワクして、ドキドキして、踊りだしたくなるほど楽しいこともたくさん待っているんだ。

だから、安心して。

窓を開けて、両手を広げて太陽の光を浴びてみて。あたたかい光が、あなたに染み込んでくるはず。大きく息をしたら、地球とあなたがひとつになる。「どこにいるか」とか「何かができること」よりも、もっと大切なこと。それは、あなたがそこに生きて存在していること。それって最高!


profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

嘉麻市生まれ。子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/


maruikoさん

イラストレーター。福岡県嘉麻市出身・在住。展覧会などで作品を発表する他、さまざまな媒体のイラストやデザインを手がける。山に囲まれた小さな住宅街の小さな家で日々暮らしている。まるやまももこ名義で音楽活動も行っている。2015年に息子が生まれ現在子育て中。
ホームページ:
https://marumomo48.wixsite.com/maruiko

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