小さな子連れの防災対策 第1話

小さな子連れの防災対策 第1話

毎年、夏から秋にかけて増える豪雨や台風の被害。近年では大規模な爪跡を残すことも多く、災害への備えは必要不可欠となっています。特に、小さな子どもと一緒に行動しなければならない家庭では、大人だけの場合と比べて想定外の事態に陥りやすく、危険度も高まります。

そこで今回は、防災士であり、抱っことおんぶの専門家という肩書きを持つ松川直子(まつかわなおこ)さんに、小さな子連れでの防災対策について聞きました。シリーズ1回目の今回は、「心と物の備え」についてです。

災害時に起こる、危険な「凍りつき症候群」

松川さん:
「災害時、多くの人が“自分は冷静に行動できる”と考えると思います。しかし統計では、ショックで動けなくなってしまう人が7〜8割、パニックを起こしてしまう人が1〜1.5割と、約9割の人は冷静さを失ってしまうと言われています。特に、ショックで動けなくなる状態は“凍りつき症候群”と呼ばれ、災害時に避難や判断が遅れてしまう原因のひとつです」

松川さん曰く、「凍りつき症候群になると、数秒から数分間、頭が真っ白になり身動きが取れない状態が続く」のだそうです。

「小さな子どもがいる状況では、保護者の行動が子どもの命に直結します。普段から、凍りつき症候群を防ぐための心構えをすることが大切です。

人間には、 “正常性バイアス”という身を守るための防御本能が備わっています。この正常性バイアスは、“自分だけは大丈夫”と考えてしまう心理状態のこと。突発的な出来事が起きた時に、きっと大したことはない、と考えることで心の平穏を保とうとする心の動きなのですが、凍りつき症候群に陥る時には正常性バイアスも働いてしまうことが多く、逃げ遅れや判断の遅れを助長することにつながるのです」

「とっさに動けない!」時のために、心にも備えを

では、「凍りつき症状群」や「正常性バイアス」の状態を回避するにはどうしたらいいのでしょうか。

松川さん:
「それには、日頃からしっかり“心の備え”をしておくことです。まずは、災害時に自分が動けなくなるかもしれないと認識する。そしてとっさの判断が冷静にできるよう、日頃から意識して防災に対する行動を習慣化しておきましょう。

群馬大学大学院の片田敏孝(かただとしたか)教授が提唱する『避難の3原則』をご紹介しますので、ぜひ行動の指針にしてください」

避難の練習は日頃の行動に組み込む

松川さん:
「凍りつき症状群や正常性バイアスについて理解したら、次は災害時を想定した具体的な避難準備です。

まずはご自宅や勤務先のある地域のハザードマップを確認しましょう。ハザードマップには被災が想定される地域や、避難場所、避難経路などがまとめられています。実際に避難所までの経路を子どもと歩いて、日頃から “防災散歩”をしておくといいでしょう。避難経路を散歩コースにしておけば、もしもの時にも落ち着いて避難所へ移動することができます。

また、自分で電話ができる年齢の子どもがいる場合は、公衆電話のある場所と使い方を教えておくのもおすすめです。災害時には携帯電話が使えないことも想定されますし、携帯電話しか知らないという子どもも増えていますので、慣れておけば緊急の際に役立ちますよ」

避難時に持ち出すものは「5㎏」を目安に

松川さん:
「緊急時に持ち出す避難袋の準備も、小さな子どもがいる場合は考慮しなければならないポイントがあります。特に女性の場合、子どもを抱っこする、または手を引いて避難するとなると、持てる荷物は5キロ程度が限界です。そこで避難袋は、“避難時に持ち出すもの”と“避難所で数日生活をするためのもの”を2種類用意しておきましょう。

持ち出す袋には、ママバッグを活用すると便利です。ママバッグをオムツのストック入れとして普段から使っておくと、避難時にそのままおむつの入った持ち出し袋として使えます。液体ミルクなども一緒に入れておけば安心です。トートタイプのバッグであれば、ある程度の月齢までは中に子どもを入れて運ぶこともできますよ」

寝室には靴・現金をストックしておく

松川さん:
「また、持ち出し袋は寝室に準備しておくといいでしょう。ホイッスル、ライトなど、緊急避難時に必要なもののほか、私の場合は必要になりがちな現金をストックするという意味で、持ち出し袋にヘソクリを入れています(笑)。

家族全員分の靴も、寝室に準備しておけば、夜でも焦らずに行動できますよ。子どもの靴は、大きめサイズの上履きがおすすめです。子どもが成長してサイズが合うようになれば普段使いに回せますので、 “上履きのローリングストック”にもなりますよ」

備蓄しておくと便利なもの
●食糧 ●飲料水 ●ラップ ●紙皿 ●割りばし ●カセットコンロ ●ボンベ
●携帯トイレ ●トイレットペーパー ●生理用品 ●マウスウォッシュ ●歯ブラシ
●くし ●ゴム ●水のいらないシャンプー ●ウェットシート ●常備薬  など

子連れでの防災には、「子どもの命を守るのは自分だ」という心構えが何より重要。普段の生活から防災意識を高め、心も物もしっかり準備しておくことが大切なのですね。

次回は、災害発生時にとるべき行動について、詳しくお話しいただきます。

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松川直子(まつかわなおこ)さん

松川直子(まつかわなおこ)さん

福岡県在住。アロマ・ボディセラピストとして、福岡県筑紫野市でサロン「クローバー」を開設。年間100回以上、アロマテラピーの講座を開催。また、防災士の資格を生かして、子育て中の方を対象に防災・減災の講座も行っている。
〈ブログ〉
https://ameblo.jp/clover-very-happy/
〈Instagram〉
https://www.instagram.com/dakko_onbu_gokigen/?hl=ja