知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第1回 福岡の現状と夏休みの体験格差】

知ることから支え合いへ、福岡の子どもの貧困問題【第1回 福岡の現状と夏休みの体験格差】

現在、日本では18歳未満の子どもの約9人に1人が貧困状態にあるとされ、福岡県の進学率は全国平均よりも低くなっています。このコラムでは、子どもの貧困問題に取り組んでいる筑紫女学園大学の大西良(おおにしりょう)先生に、これまでの活動を通して感じたことや身近なエピソードを交えながら、貧困が子どもたちにもたらすさまざまな不利の連鎖と生きづらさについて紹介してもらいます。第1回のテーマは「福岡の現状と夏休みの体験格差」。子どもの貧困問題の今と未来を一緒に考えてみませんか。

統計データでみる子どもの貧困率と福岡の現状

まずはこちらのグラフをご覧ください。日本の「子どもの貧困率」(※1)の推移です。

出典:厚生労働省(2023年)「令和4年度国民生活基礎調査の概況」より筆者作成
このグラフでは18歳未満を子どもと定義。2018年以降は、新基準として自動車税や仕送りなどの支出を加えている。


直近の2021年は11.5%となっていて、子どもの9人に1人、実数にすると約250万人の子どもが貧困状態にあると推計されます(※2)。1985(昭和60)年の10.9%からじわじわと上昇し、2012(平成24)年には16.3%と最も高い数値になっています。ここ数年は改善がみられますが、高い数値であることには変わりません。

では、福岡県の現状はどうでしょう。県が5カ所に設置する「子ども支援オフィス」では、子育て世帯の困りごとに関する相談支援を行っています。
県の資料(※3)によると、2022(令和4)年度に「子ども支援オフィス」で対応した相談のうち、約4割(39%)が「お金に関すること」で、群を抜いています。さらに、コロナ禍以降、お金に関する相談は増加傾向にあり、経済的困難(貧困)を抱える子育て世帯の悩みは、より切実になっていることが見てとれます。

※1…「子どもの貧困率」とは、18歳未満の子どものいる世帯の相対的貧困率(等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯)をさします。直近のデータである2021(令和3)年の等価可処分所得の中央値の半分は、127万円となっています。
※2…厚生労働省(2023)「令和4年度 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
(2024年6月17日閲覧)
※3…福岡県(2024)「【資料2】子ども支援オフィスの相談実績から見える現状と傾向」
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/730685_62158152_misc.pdf
(2024年7月24日閲覧)

「夏休みの絵日記の宿題が地獄」という子どもたち

経済的困難(貧困)によって、子どもたちはさまざまな不利や格差を経験することになります。特に夏休みは「体験の格差」が生じやすい時期と言われています。例えば、子どもたちからこんな言葉を聞くことがあります。

「家族旅行に行った友だちの話を聞くと、自分の家庭との差を強く感じる」

「夏休みの絵日記の宿題が地獄。みんなの楽しい思い出話を聞いていると、どこへも連れて行ってもらえなかった自分が惨めに感じる」

また、私の知人(シングルマザー)は、「たまに子どもにお出かけを提案すると、その体験自体を喜ぶのではなく、『友だちに自慢できる』『友だちと対等になれる』とはしゃぐ姿に心が痛む」と話していました。

このように、「体験の格差」は子どもの自尊心や自己肯定感の低下を招きます。周囲との比較で自分の置かれている状況が鮮明になり、強い劣等感を感じる子も少なくありません。人と比べることで顕在化する「相対的貧困」が子どもを苦しめるのです。

いま貧困状態にある9人に1人の子どもたち。この「1人」がどんな葛藤を抱き、どんな生活を余儀なくされているのか、まずは私たち大人が心を寄せることが大切ではないでしょうか。

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大西 良(おおにし りょう)先生

大西 良(おおにし りょう)先生

筑紫女学園大学 人間科学部 人間科学科 心理・社会福祉専攻 准教授
筑紫女学園大学 大学院 人間科学研究科 准教授

大学に勤めるかたわら、福岡県筑豊地区の小・中学校でスクールカウンセラーとして勤務。また、子ども食堂の支援や夜回り活動など、子どもの貧困問題にも取り組んでいる。

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