「いいんだよ」は魔法の言葉Vol.1~できないことを嘆くのではなく、できることを認めてあげる~
「『いいんだよ』は、子どもたちをやる気にさせる魔法の言葉なんです」。こう話すのは、福岡市東区にある立花高等学校の校長・齋藤眞人(さいとうまさと)さんです。
不登校の生徒の自立支援に力を入れる同校。エフコープでは、そのとりくみを引っ張ってきた齋藤さんを招いて講演会を開催しました。その中で語られた斎藤さんの思いと大人たちへのメッセージを、2回にわたってお伝えします。
子どもの欠席日数を数えるのが大人の役割じゃない
齋藤さん:
「名前を書きさえすれば入学できる」。うちの高校は、そう言われ続けてきました。そんな高校に今、520名を超える子どもたちが通っています。定員が450名ですから、私立学校であるうちにとって、これほどありがたいことはありません。
ただ、その現状を喜んでいる教師は一人もいません。何らかの理由で学校に行けない子どもたちを迎え入れている高校の生徒数が、年々増えている。その結果として、経営が潤う。果たして、これでいいのでしょうか?
文部科学省では、不登校の定義をこう定めています。「何らかの 心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、 登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間 30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」。この定義に倣うなら、うちの高校に通う子どもたちの400名以上が、中学時代は不登校ということになります。
ここで私は問いかけたい。子どもが何日学校を休んだからといって、そのことが、誰に、どのような迷惑を掛けているのでしょうか? 1年に200日以上学校に行かなくても、社会の中でたくましく生きている子どももいます。その一方で、学校を1日も休んでいなくても、心がすっかり折れてしまっている子どももたくさんいます。私たち大人が、子どもたちに対してしてあげること。それは、子どもの欠席日数を数えることではないと思うんです。
できないことを嘆くのではなく、できることを認めてあげる
齋藤さん:
そもそも、私たち大人は、子どもが毎日学校に行くことを当たり前のことと思っていませんか? でも、考えてみてください。朝早く起き、「早く学校に行く準備しなさい」と言われながら着替え、ごはんを食べて、学校まで歩いて行く。これを毎日続けるって、すごいことだと思いませんか。
親として子どもと向き合うとき、どうしても「できないこと」に目が向いてしまいます。ある中学校で保護者や子どもからアンケートをとった結果、家庭で一番多く言われている言葉は「早くしなさい」だったそうです。「早く起きなさい」「早く片付けなさい」「早く宿題しなさい」…。そう言われ続ける子どもたちの心は、ほとほと疲れています。
もちろん、叱らないといけないときはあります。ただ、叱らなくていいときも叱っていませんか? できないことを嘆くのではなく、できることを認めてあげる。そういった寛容さを社会が見せてあげたら、子どもたちも、もっと生きやすくなると思うんです。
「いいんだよ」。それは、心を軽くする魔法の言葉
齋藤さん:
何でも上手にできなくても、いいじゃないですか。「いいんだよ」。そう言ってあげるだけで、子どもたちの心がどれだけ軽くなるか。「できるのが当たり前」ではなく、「できなくて当たり前」という前提に立てば、子どもたちがいかに頑張っているのかが見えてきます。引いてはそれが、親であるみなさんの心を軽くすることにつながるのではないでしょうか。
「できなくてもいいんだよ」。それは、子どもの心を軽くするだけでなく、親の心も軽くする魔法の言葉。次回は、「100回の“しなさい”」より「1回の“ありがとう”」をお伝えします。
profile
齋藤眞人(さいとうまさと)さん
1967年宮崎県生まれ。宮崎県の公立中学校の音楽教員を経て、2004年に立花高等学校に着任。2006年から校長を務める。日々、学校で多くの生徒たちと触れ合う一方で、講演活動は年間100本以上。座右の銘は「共にいる」。
著書に「『いいんだよ』は魔法の言葉-君は君のままでいい-」(梓書院)