「いいんだよ」は魔法の言葉Vol.4~お子さんへの愛を惜しみなく~

「いいんだよ」は魔法の言葉Vol.4~お子さんへの愛を惜しみなく~

福岡市東区にある立花高等学校で、不登校の生徒たちの自立支援に力を入れる校長の齋藤眞人(さいとうまさと)さん。個性を尊重することを大切に生徒たちと向き合い、生徒からは親しみを込めて「校長ちゃん」と呼ばれています。「子どもも、子育ても、ありのままでいい。それが一番」と話す齋藤さん。そう思うようになったきっかけを語っていただきました。

優しいだけじゃ社会で通用しない?

齋藤さん:
ある日のこと、糸島市にある中学校の生徒から「立花高等学校の”よさこい”(※)がかっこいいから、ぜひ教えに来てほしい」とメールが届きました。「名前を書けば入学できる」と言われてきたうちの高校を、「かっこいい」と言ってくれる子どもがいる。そう思うとうれしくなって、「よさこい部」の生徒たちと、その中学校へ遠征に行きました。

すると、中学校の先生方がおやつにシュークリームを用意してくれていました。ここだけの話ですが、スーパーで売られているような、ごく普通のシュークリームです。それをみんなで食べていたところ、うちの生徒が私の袖口を引っ張って、「校長ちゃん、ティッシュペーパー持っとる?」と聞いてきました。「持っとるけど、何に使うと?」とたずねると、「弟に食べさせたいけん、ティッシュに包んで持って帰る」と言うのです。
優しくないですか? 自分にもらったシュークリームを、弟にあげるために持って帰ろうとするなんて。ティッシュと一緒に「先生の分もあげるから、あんたも食べんね」と言ってシュークリームを渡したところ、ひと口食べるなり、その生徒が目を丸くしながらこう言ったんです。「あー、おいしい!うち、初めてシュークリーム食べた。こんなにおいしいんだ!!」。生まれて17年間、シュークリームを食べたことがない子どもが、食べるのを我慢して「弟に食べさせたいけん、持って帰る」と言う。その場にいた私と部活の顧問の教師は、トイレに駆け込んで号泣しました。

帰り道、車の助手席で弟に渡すシュークリームを大事そうに抱えていた生徒に、「あんた、優しいねぇ~」と声を掛けたところ、その生徒がこう言ったんです。「でもね、校長ちゃん。うち、いろんな人から『優しいだけじゃ、社会に出たら通用せん』って言われた。うち、このままでいいと?うち、社会に出るのが怖い…」。
この生徒は、親だったら誰もが「こう育ってほしいと」と願うような心優しい子どもです。そんな子どもに対して、「それじゃ、社会じゃ通用しない」と教える。果たして、それでいいのでしょうか? 私は、優しさが通用しない社会の方がおかしいと思います。そもそも、どうして「優しすぎるから」という理由で子どもが責められないといけないのでしょうか。

「よかよか。それでよか。あんたは、社会に出たら絶対みんなにかわいがってもらえる。心配せんでも、大丈夫。それでよか」。私が子どもたちに対して、心の底から「ありのままでいいんだよ」と思えるようになった瞬間でした。子どもたちが、ありのままの自分で社会に出る。そして、社会がその子どもたちを認め、受け入れ、支え合う。そうやって、寛容な社会が醸成されていくのだと思っています。
※高知県高知市の祭り。趣向を凝らした演舞が特徴で、全国に広がっている。

どんなにしんどい出来事にも、必ず光は射している

齋藤さん:
みなさん、今日はぜひ、お子さんをハグしてあげてください。私は、母が病気で入院したとき、見舞いに行くたびに抱きしめていました。なぜなら、それが最後になるかもしれないと思っていたからです。今日、みなさんがお子さんを抱きしめたとします。ひょっとしたら、それが人生最後のハグになるかもしれません。でも、その1回1回を積み重ねていくことが、親子としての人生を紡いでいくんです。
あるお母さんから、こんな話を聞いたことがあります。そのご家庭は母一人・子一人で、朝から取っ組み合いのケンカをすることも珍しくないのだとか。そして最後には決まって、小学校5年生の息子さんが「このくそババァー!」と叫びながら家を飛び出すのだそうです。お母さんも「くそー!」と苦々しく思いつつ、「でも、これが最後になるかもしれない」と、家から見えなくなるまで見送るのだとか。すると、子どもも曲がり角を曲がる直前に、肩越しにちらっとお母さんの方を向いて、小さく手を振るのだそうです。
良い話だと思いませんか? 愛している相手がいるうちに、愛を伝える。それって、すごく大切なことだと思うんです。私が母を抱きしめてあげられたのも、母が長生きしてくれたから。みなさんも、お子さんへ愛を惜しみなく注いでください。
ここで、一つの詩を紹介します。

両手に抱えきれないほどの大きな幸せより
手のひらサイズの小さな幸せを
いっぱい知っている方が 
幸せに近いような気がします


どんなにしんどい出来事にも、必ず光は射しています。その光に気づくことができるかどうか。それが大事なのだと思います。前にも話をしましたが、「できない」ことを嘆くのではなく、「できる」ことを認めてあげる。そうすれば、必ず光は見えてきます。ほんのちょっとした「できる」ことを小さな喜びとし、お子さんと一緒にその喜びをたくさん感じながら、子育てという時間を過ごしてください。

profile

齋藤眞人(さいとうまさと)さん

齋藤眞人(さいとうまさと)さん

1967年宮崎県生まれ。宮崎県の公立中学校の音楽教員を経て、2004年に立花高等学校に着任。2006年から校長を務める。日々、学校で多くの生徒たちと触れ合う一方で、講演活動は年間100本以上。座右の銘は「共にいる」。
著書に「『いいんだよ』は魔法の言葉-君は君のままでいい-」(梓書院)