料理研究家・コウケンテツさんの、子育ても食卓もコウありたい 第2話
手軽なレシピはもちろん、親しみやすいキャラクターでも人気の料理研究家・コウケンテツさん。夫婦で子育てに向き合う私生活についてご紹介した1話で、コウさんの魅力にますます惹かれた方も多いのではないでしょうか。2話では、食の仕事を通じて今、コウさんが考えている家庭の食のあり方についてお話をお聞きします。
日本ほど家庭の食のハードルが高い国はない
最近の家庭の食に対してコウさんが感じていること、それは料理研究家という立場で語るには少し意外な内容でした。
コウさん:
「僕はテレビの仕事で、およそ10年間にわたってアジアやヨーロッパ数十カ国に出向き、一般家庭のリアルな食生活に触れてきました。取材で国内の家庭の食卓にもお邪魔しますし、全国の幼稚園で料理教室を開いていた時期もあります。
そのような中で感じるのは、世界で日本ほど家庭料理のハードルが高い国はないということ。それは素晴らしいことでもあるのですが、同時に、家族の食を任されることが多いお母さんたちのストレスにもつながっているのではないかと思うんです」
海外の多くの国は日本のように料理しない
(写真上)ドイツの若いカップルたちと一緒に晩ご飯をとった時の様子。(写真下)台湾のルーロー飯。安くておいしい屋台やお店がたくさん!
コウさん:
「日本と諸外国は食に対する価値観が違っていて、向こうはとても合理的です。
東南アジアの多くの国では、近所に安くておいしい食堂や屋台がいっぱいあるから、普段の食事はほとんど外食です。
食文化に恵まれたヨーロッパでも、毎日時間をかけて料理を作るなんてことはありません。パリの一般家庭を取材した時のこと、夕食は市販のタルタルステーキ※にオーブンで焼いた野菜やパンを添えるだけでした。でもそれはいたって普通のことで、スーパーに行けばおいしいお惣菜はいくらでも手に入るから、わざわざ作る必要はないんですね」
※生の牛肉または馬肉を、粗いみじん切りにして味付けし、タマネギやピクルスのみじん切りなどの薬味と卵黄を添えた料理。
味覚は本来、とても保守的なもの
デンマークのあるご家庭の晩ご飯。スモークサーモンとパンと茹でたジャガイモだけ。なんてシンプル!
コウさん:
「加えて、海外の多くの国では毎日、同じような料理が食卓に並びます。日本みたいに、やれ今日はパスタだ、明日はカレーだ煮物だとバラエティに富んだ料理が出ることはほとんどないし、むしろ普段と違うものを出されると、『何これ?』と警戒しちゃう。
本来、味覚というのはそれくらい保守的なものなのでしょう。日本人はいつの間にか飽食の中でその感覚をなくしてしまったのかもしれないですね」
そんなに料理を頑張らなくていい
そういう現状を目の当たりにするにつれ、家庭を持つ日本の女性の多くは食に対して頑張りすぎだと言うコウさん。
コウさん:
「料理が好きな方はいいと思いますが、そんな方ばかりではないですよね。料理が得意ではなのに、仕事や育児でヘトヘトになりながら、毎日台所に立たなくちゃいけない。昨日と違う献立を考えなくちゃいけない。そうやって頑張って料理を作っても、夫はそれを当然と思っていて、おいしいの一言もない。そんなの僕なら耐えられません(笑)。
日本の家庭はもっと食に対するハードルを下げるべきだと僕は声を大にして言いたいです。そんなに頑張らなくていいんです。
日本には料理研究家と呼ばれる人が山のようにいますが、海外では、料理研究家なんてほんのひと握り。何よりそれが食のあり方の違いを語っていますよね」
料理のバリエーションを増やす必要はない
世界を回るうちに「お弁当ももっとシンプルでいい」と思い、考案した簡単お弁当レシピ本『コウケンテツのだけ弁』(扶桑社)。この本も、家事の手間を省く一助に。
コウさん:
「講演会などで、『どうやって料理のバリエーションを増やせばいいんですか?』『どんな素材を使えばいいですか?』という質問を受けることがよくあります。ママたちは本当に、料理のスキルを磨くことに一生懸命です。でも、僕が言うのは変かもしれませんが、料理のバリエーションなんて増やさなくても大丈夫。
家族が喜んでくれて、作りやすくて、後片付けも簡単。そんなレシピを2~3つ持っておけば、それを1週間のルーティンにすればいいんです。同じものを何度も作る方が腕も上がりますし、レパートリーを増やすのはそれからで十分です」
食事はお惣菜でも外食でもいい
そんなふうに考えるコウさんですが、実はコウさんのお母さんも長く料理の世界で活躍しており、食にこだわる家庭で育ちました。
コウさん:
「ですから、この仕事を始めてから僕もずっと『基本は手作り』だとメッセージしてきました。朝からちゃんとご飯を炊きましょう、だしをとりましょう、と。でも、今は『よくそんなこと言ってたな!』と我ながら思います(笑)。料理を生業にしている僕ですら、3人の子育てをしながら、毎回きちんと食事を作ることなんてできません。ましてや、そうでない方がやれるわけがないんです。
わが家でも時間がなければ外食もするし、お惣菜や出前で済ませることもあります。正直なところ、以前はスーパーのお惣菜コーナーはほとんどスルーしていました。でも、最近は食の傾向を知るためにも欠かさずチェックしています。いや本当に、最近の既製品の味のレベルはすごく高いですね(笑)」
夫を上手にプロデュースしよう
コウさん:
「女性がもっとラクになるためにも、家事や育児はぜひ夫婦でシェアしてください…というか、それって当たり前のこと。そもそも『イクメン』とか『カジダン』なんていう言葉には違和感があるんです。
では、家のことを何もしてくれない夫に対して、妻はどう働きかければいいか。
とある脳科学の先生いわく『男の脳はいくつになっても3歳児』なのだとか(笑)。つまり、男はもともと何にもできない生き物。そんな夫を教育するのは、家族のプロデューサーである妻の手腕にかかっています。
歌うことも踊ることもできない一人の人間を、どうすれば人気アイドルに育て上げることができるか。ぜひ、そんな遊び感覚で夫のプロデュースを楽しんでみてください(笑)」
「僕もそうやって妻から育てられてきたんですよ」と語るコウさん。自身の経験を踏まえた話にはとても説得力があります。3話では、コウさんが考える食育についてご紹介します。
profile
コウケンテツさん
料理研究家。大阪府出身。ジャンルを超えたさまざまな家庭料理に加え、韓国料理のテイストを取り入れたレシピも好評。NHK BS1「コウケンテツの世界幸せゴハン紀行」、RKB毎日放送「たべごころ」などのテレビ番組の他、雑誌や講演会など多方面で活躍。著書に『保存版 僕が家族に作りたい 毎日の家ごはん』(新潮社)、『コウケンテツのおやつめし』(クレヨンハウス)、近著『コウケンテツのだけ弁』(扶桑社)など多数。
Instagram:kohkentetsu
https://www.instagram.com/kohkentetsu/