料理研究家・コウケンテツさんの、子育ても食卓もコウありたい 第3話

料理研究家・コウケンテツさんの、子育ても食卓もコウありたい 第3話

料理研究家として活躍しているコウケンテツさんからお聞きした、ご自身の家庭や食についてのインタビューをお届けしています。夫婦で協力して熱心に子育てに取り組んでいる様子をお伝えした1話、日本の食卓について独自の視点で語ってくださった2話。そして3話は、育ち盛りの3人の子どもの父親という立場から、コウさんが考える食育についての興味深いお話です。
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今の日本の家庭で食育は難しい

育ち盛りの3人の子育てにも熱心なコウさん。食育に関してどのような考えを持っているか、とても気になるところです。

コウさん:
「日本では食育へのとりくみが盛んで、行政も家庭での食育を奨励しているし、若いお母さんたちも、多かれ少なかれ家庭での食育に力を注いでいるようです。でも、今の日本はさまざまな食べ物があふれていますし、核家族化が進んでいて、子育てのサポートを得るのが難しい。さらに、働く女性は増えているのに夫の家事・育児への参加はまだまだ遅れているから、時間も気持ちも余裕なんてない。そんな現実を考えると、今の日本の家庭でしっかりとした食育なんてできるのでしょうか? それって実はすごく難しいことじゃないかと僕は思っているのですが…」

食育は教育機関におまかせして

コウさんも、保育園などでクッキングの講師を務めることがあるのだそうです。

コウさん:
「一番の問題は、家庭での食育はそのほとんどが暗黙の了解として母親の役割になってしまうこと。そうでなくても家事や育児、仕事で忙しいお母さんが、子どもの食育まで背負わなければならないとなると、一体どれだけ大変なんだろう。
僕は、家庭に食育を持ち込む必要はないと考えています。最近は保育園や幼稚園、学校などでも食の教育に熱心ですし、自治体のイベントなどでも食育をテーマにいろいろなとりくみを行っていますから。食育は教育機関に任せてしまっていいと思っています」

食卓で子どもをできるだけ叱らないで

では、食について親が日常的に心掛けておくべきは、どんなことなのでしょうか?

コウさん:
「うちの息子は野菜がかなり苦手なんです。完全に料理家である僕の営業妨害ですが(笑)、『学校ではちゃんと食べてますよ』って先生はおっしゃるんですね。学校で頑張って食べているんだったらそれでOK。
よく、子どもが食べものをこぼすと激しく叱ったり、ご飯を全部食べるまで席を立たせなかったりという親御さんがいます。もちろんその気持ちはよくわかります。でも、楽しいはずの食卓で子どもを叱ったり辛い思いをさせたりでは、子どもにとって食は苦痛でしかなくなります。食の楽しみが身につくどころか、叱られないためにはどうするか、そっちの思考ばかり働くようになるでしょう。
食卓では、叱るよりもいっぱい褒めてあげて、子どもに『おいしい』『食べられた』という成功体験をできるだけたくさん積ませてあげてください」

料理の手伝いは一つの工程だけに

長男の舜くんは、かなりの料理上手。その様子を見ていた長女の蓮(れん)ちゃんも、最近料理に興味津々なのだそう。

子どもに料理を手伝わせることに対しても、コウさんからこんなアドバイスをいただきました。

コウさん:
「子どもに料理を手伝わせるのは大賛成ですが、お手伝いは一つの工程だけにとどめるようにしましょう。一緒に肉じゃがを作ろうとなったら、子どもには『じゃがいもを切るだけ』とか『混ぜるだけ』とか1つやってもらうだけでいい。子どもは飽きやすいので、最初から最後までやらせようとすると必ず途中で嫌になるし、そこで親と喧嘩になってしまうことも多々あります。そうすると、もう2度と手伝いなんかしたくないってなるし、教える親も大変じゃないですか。
じゃがいもの切り方だけをしっかり教えて、“ありがとう”“助かったよ”と感謝の気持ちを表したらそれでおしまいにして、次の日にまた違うことを手伝ってもらう。段階を踏んで上達するように仕向けることも、子どもに成功体験を積ませることにつながりますから」

食卓は家族みんなで作ること

コウさん:
「もう一つ大事なことは、食卓は家族みんなで作ろうということです。
ヨーロッパでは、ママが食事の支度をしている間に、お皿を並べたり食後にお皿を洗って片付けたりするのは、ごく当たり前にパパや子どもの役割です。
食事中はゆっくり会話を楽しんで、家族で食卓を盛り上げます。妻が作った料理に対して、夫は『おいしい』と言うことを忘れません。子どもに好き嫌いがあると、パパは『ママがこんなにおいしいものを作ってくれているのに食べないなんて、キミはすごく損をしてるよ』と素敵に言って聞かせる。
子どもに食の豊かさを伝えるために必要なことは、時間のない中で苦労して全部手作りにするとかではなく、家族で食卓を囲む楽しい時間です」

家族が笑顔で食卓を囲むことが一番

最後に、コウさんは食育についてこう締めくくってくださいました。

コウさん:
「僕が考える究極の食育は、食卓で、家族が笑顔でおいしいおいしいと言い合いながら、その日テーブルに上がった料理を残さずきれいに食べること。ママが料理を作ったら、パパは子どもと一緒に片づけをすること。そうやってハッピーな食のひとときを過ごすことができれば、これ以上素晴らしい食育はありません。
ぜひ、家族でそんな時間を大切にしてください」
子育てにも、家事にも頑張りすぎないで、もっと肩の力を抜いて。そんなコウさんのお話はきっと、子育て世代の多くの女性の励みになることでしょう。
今回のコウケンテツさんのインタビュー、ぜひパートナーの方と一緒に読んでみてください。

profile

コウケンテツさん

料理研究家。大阪府出身。ジャンルを超えたさまざまな家庭料理に加え、韓国料理のテイストを取り入れたレシピも好評。NHK BS1「コウケンテツの世界幸せゴハン紀行」、RKB毎日放送「たべごころ」などのテレビ番組の他、雑誌や講演会など多方面で活躍。著書に『保存版 僕が家族に作りたい 毎日の家ごはん』(新潮社)、『コウケンテツのおやつめし』(クレヨンハウス)、近著『コウケンテツのだけ弁』(扶桑社)など多数。
Instagram:kohkentetsu
https://www.instagram.com/kohkentetsu/