子どもと絵本の時間を楽しみたくなる『1つぶのおこめ』

子どもと絵本の時間を楽しみたくなる『1つぶのおこめ』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑪


絵本って、いつまで読んであげたらいいのでしょうか? というご質問をよくいただきます。
小学生になって字が読めるようになったら、本は自分で読むものなのでしょうか? 私は、それがちょっともったいない気がするのです。ですから、今日は小学生のお子さんと一緒に読んで、読み終わった後に爽快な気持ちを共有できそうな作品をご紹介しますね。

昔、インドのある地方に王さまがいました。この王さまは、毎年稲が実る頃になると「飢饉が来た時のために」と言って、民からお米を集めては米蔵にしまい込んでいました。
ある年、本当に飢饉に見舞われて、民たちは食べるものがなくなってしまいました。ところが王さまは、「飢饉が長引いたら自分の食べるものがなくなる」と言って、みんなにお米を分けてはくれません。それどころか、王さまは宴会を開こうとし、蔵から宮殿までお米をどっさり運び出すことにしました。
その道すがら、お米を入れた籠からお米がこぼれ落ちているのを見つけた賢い村娘のラーニは、そのお米をスカートで受けて王さまに届けました。その行いに感心した王さまは、ラーニに褒美として何でも好きなものを与えると言います。
ラーニは何が欲しいと言ったと思いますか? 今日はお米を1粒。明日はお米を2粒。明後日はお米を4粒。30日間、前の日の倍の数のお米を与え続けてほしいと言います。「ささやかなものだ」と快諾する王さま。さて、それは本当にささやかな願いだったでしょうか?
ラーニに与えるお米は、9日目には256粒になっていましたが、これまでにもらったお米を合わせても、片手一杯分ほどです。ところが、16日目には袋いっぱいの量になり、24日目には籠8つ分になりました。30日目に、ラーニはいったいどのくらいの量のお米をもらえるのでしょうか。

プログラミングなどでも活用する累乗計算のお話なのですが、単に数の世界に興味を持つだけではないように思います。知恵を使って難局を乗り切るこのお話の結末は爽快で、近い将来、学びを社会問題の「幸福」な解決のために生かしていくであろう若い世代のみなさんや子どもたちに、ぜひ触れていただきたい世界です。
絵本の中には、お米を運ぶゾウの様子が両開きで描かれた大迫力のページも。それを見た子どもたちが思わず感嘆の声を上げる姿を見るにつけ、もう少しだけ子どもたちとの絵本の時間を楽しみたいという「ささやかな願い」が湧いてきます。みなさんもこの本をお子さんと一緒に読めば、きっとそんな時間が過ごしていただけると思いますよ。

今回ご紹介した本

『1つぶのおこめ〜さんすうのむかしばなし〜』
作:デミ
訳:さくまゆみこ
光村教育図書

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/