日本文化を誇らしく感じる『和ろうそくは、つなぐ』

日本文化を誇らしく感じる『和ろうそくは、つなぐ』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(28)


寒い季節になると、学生時代に経験した酒蔵でのアルバイトのことを思い出す。作る手順だけでなく、道具の手入れの仕方まで伝統を守っていた。お酒はもちろんおいしかったけれど、酒蔵で働く女性たちがふるまってくれる、粕漬は絶品だった。皆でにぎやかに昼食をとるあの温かい雰囲気が、酒蔵の寒さで冷えた体を温めてくれるようだった。

酒粕を使ったさまざまな料理があるように、日本の伝統的なモノづくりの共通点は、その過程で生まれるものを余すことなく活用し、循環させているということなのだと、この絵本にあらためて気づかされた。
このドキュメンタリー映画のような作品の始まりは「和ろうそくが何からでき、どのように作られているのか」という疑問。愛知県の和ろうそく工房の紹介から始まり、蝋の材料であるハゼの実は長崎県で収穫され、蒸して圧搾。その絞りカスは、福岡県の藍染工房で燃料として再利用される。そしてさらに…続きはぜひ絵本をご覧あれ。

このように伝統的なモノづくりには、自然の恵みを全く無駄にしないすばらしい「循環」という物語がある。私たち日本人が、四季を感じる風土の中で、自然からの恩恵に感謝し、知恵と日々の努力の重なりで守り伝えてきた、昔からの営みの中に、今世界が希求する「持続可能な世界」のヒントが散りばめられているのではないだろうか?

この絵本を読んだ後、久しぶりに灯した和ろうそく。長く伸びて、時折フッと小さくなる炎。何とも心地よく揺らめく炎の向こうに、絵本の中で出会った職人の方々や、「物を大事にしなさい。」と言っていた祖母の顔、鉄鍋の修理をしていた祖父の手が浮かんだ。これから出会うさまざまなモノを大切にしたいと思った。きっとこの絵本に出会う子どもたちにも、どんな言葉やルールよりも、大切なことが伝わるのではないか。そして、日本の文化を誇らしく感じることだろう。

今回ご紹介した本

『和ろうそくは、つなぐ』
写真・文:大西暢夫
アリス館

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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