絵が音を語る!『うるさく, しずかに, ひそひそと 音がきこえてくる絵本』
書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(30)
少し前に、中学生の女の子にこんな相談を受けました。「私は、よく授業中にお腹が鳴って、恥ずかしい。」と。「みんなそうだよ。私も鳴るよ。」と答えたけれど、彼女は何となく腑に落ちない様子。それが気になって仕方ないのでしょう。いつもお腹に手を当てていました。
後日、彼女に読んでほしくて選んだのがこの本。蛍光色の美しいグラフィック。子どもっぽくなくて、中学生の彼女も気に入ってくれるといいなと、本棚から取り出しました。
「音」とは何なのか。数え切れないほどの種類の楽器の組み合わせから生まれる音楽。声。騒音。自然の中の音。録音に、世界中にある言語、手話。他にも音にまつわる、いろいろなお話が載っています。絵本から音が聞こえてくるようなページや、耳を澄ましてみたくなるようなページもあり、隅々まで堪能したくなります。
「読んでみる?」とその中学生に手渡すと、ゆっくりと読み始めました。体が奏でる音について紹介してあるページがあり、「わたしたちのからだって、とってもうるさい!」と書いてあるところを読んだ彼女。音もなくクスッと笑った後に、ちょっとだけ私の方を見ました。目が合って、音もなく、何かがお互いの間で通じ合ったような気がしました。
この出来事を思い出しながら、もう一度読んでみると、絵本の中に「わかりあうために、わたしたちは、言語をつかって話す。」「ときどき、おたがいの話が、つうじにくいことがある。そんなときは、さびしいきもちになる。」という言葉がありました。ウクライナのご夫婦が手掛けたこの作品。私が中学生の彼女と交わした、ポッとあたたかい、あの一瞬のような日々が、ウクライナに一日も早く戻ってくることを願いながら、静かに絵本を閉じました。
今回ご紹介した本
『うるさく, しずかに, ひそひそと 音がきこえてくる絵本』
著:ロマナ・ロマニーシン
アンドリー・レシヴ
訳:広松由希子
河出書房新社
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/