自分にもできることがある『ひとりでがんばらない!子どもと考える福祉のはなし』

自分にもできることがある『ひとりでがんばらない!子どもと考える福祉のはなし』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(50)


近年、「こども家庭庁」が設置されたりして、子どもを取り巻く諸課題の解決に、国を挙げて注力しようという流れを感じています。日々、フリースクールで子どもたちと向き合っている私の周りでも、「厳しい状況にある子どもたちを、何とかしたい」と、さまざまな組織や団体の動きが活性化してきているようです。みなさんの周りはどうですか?
私は日々、ふたつの違和感を感じています。ひとつはおとなのこと。課題解決のためにおとなが顔を合わせて話し合った結果、今あるリソースで対応できないとなった場合のことです。おとなはみんな無力感に苛まれて、暗い顔をしています。もうひとつは、子どものこと。もう、これ以上がんばらなくてもいいのに「もう少しがんばってみる」と言ってしまい、周りの介入のタイミングが遅れてしまうことです。
この本には、「社会福祉」の基本的な考えについて、子どもたちにもわかるように解説されています。貧困やひきこもりを例に、法律や制度、社会の仕組みなどについて、自分事として感じられるような内容になっています。それだけではなく、3つの解決策が提案され、最後のページには、私の中の違和感を払拭してくれるメッセージがありました。どなたにも、ぜひ手に取って読んでいただきたい。
私は最後のページを読んだときに、大学生の頃に参加したボランティア活動のことを思い出しました。貸切電車でしょうがいのある方々と、数百人で旅行をするという活動でした。電動車いすに乗った男性と一緒に駅のホームに移動するとき、当時はまだエレベーターがなくて、おとな4人で持ち上げて階段を上りました。総重量100㎏を超えていて、駅員さんにも手伝ってもらいました。2年後、その駅にエレベーターが設置されていました。
福祉サービスが特別ではなく、身近なものになるために、そして誰もが生きていることを苦しまずに済む世の中になるために、自分にもできることがある。そんな気持ちにさせてくれる作品です。

今回ご紹介した本

『ひとりでがんばらない!子どもと考える福祉のはなし』
著:藤田孝典
絵:北村 人
クレヨンハウス

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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