天の川をめぐる美しい物語『たなばた』

天の川をめぐる美しい物語『たなばた』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(22)


七夕といえば、今でも忘れられない恒例行事がわが家にはありました。朝、早起きをして父と一緒に朝露を集め、その水で墨をすり、できた墨液で短冊にお願いごとを書いて笹の枝に結わえる。大人になって、その朝露は、いったい何の植物の葉から集めたのかという話になったことがありました。私は「ツユクサ」と言い、父は「蓮の葉やったかな?」と曖昧でしたが、母はしっかりと覚えていて「芋の葉よ。」と。「そうそう!サトイモの葉っぱやったよね!」と懐かしく語り合ったりもしました。

そして、もう一つの思い出が今回ご紹介する絵本。出会いは、4、5歳の頃だったでしょうか。
天の川の西側に住むひとりの牛飼。その牛飼いは、年老いた牛に言われるままに、川あそびをする七人の天女の着物の中から、おりひめの着物を盗み隠してしまいます。驚いた天女たちは着物を着て鳥になって飛び去りますが、おりひめは着物がないので飛べません。牛飼はおりひめに着物を返す代わりに、妻になってくれと頼みます。
やがてふたりの間には、男の子と女の子が生まれ、幸せに暮らしていましたが、天の王母さまに見つかり、おりひめは天に連れ戻されます。悲しんだ牛飼は、竹籠に二人の子どもを入れて担ぎ、おりひめの後を追いかけます。天の川までたどり着くものの、その川は天まで延びていて、どうにも追いつけません。
がっかりして家へ帰ると、年老いた牛がまた助言をくれます。そのおかげで、天の川まで何とかたどり着くのですが、また王母さまに阻まれてしまいます。ごうごうと逆巻く川に、子どもたちがある方法で立ち向かおうとするのですが、その姿のあまりにも切ないこと。

絵本は楽しいお話ばかりでなく、このように余韻のあるお話もまた、素敵なものです。この絵本に出会った晩、一緒に寝ていた祖母がどこにも行ってしまわないように、お布団にもぐり、祖母の片方の太腿に抱きついて寝た覚えがあります。幼かった私にとって祖母は、とても大切な人だということに気付いたのでしょうね。
年中行事も、それにまつわる絵本も、家族への想いが詰まっていて、大切にしていきたいものですよね。もうすぐ七夕。今年は久しぶりに、芋の葉を探してみようかな。

今回ご紹介した本

『たなばた』
再話:君島 久子
画:初山 滋
福音館書店

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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