読み終えたあとに感じる“幸せ”『ふくろうくん』
書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑭
読む本が絵本から読み物へと移っていく4〜5歳頃。本選びに悩まれる方も多いかと思います。この作品は、大きさは読み物サイズですが、文章の量は絵本とあまり変わらないので、移行期のお子さんによくおすすめしています。自発的に本を読み始めた子にも、ちょうど良いと思いますよ。
主人公は、この表紙のふくろうくん。ちょっと貫禄のあるお腹で、賢い物知りのおじさまのように見えますが、実は幼い子どもたちと同じような発想や、ちょっと愉快な行動をする、魅力的な主人公です。
おはなしは、〈おきゃくさま〉〈こんもりおやま〉〈なみだのおちゃ〉〈うえとした〉〈おつきさま)の、5編の短いお話で構成されています。
〈こんもりおやま〉では、ベッドに入ったふくろうくんが、毛布の下にこんもりお山を見つけます。それが「どんどん大きくなったらどうしよう」と、気になって気になって眠れなくなります。さて、ふくろうくんはどうしたと思いますか?
〈うえとした〉では、ふくろうくん、おうちの1階にいるときには2階が気になり、2階にいるときには1階が気になります。同時に上の階と下の階にいられる方法はないかと、20段の階段を大急ぎで昇り降りし始めますが、良い方法は見つかったかな?
その他のお話しも、ほのぼのとした内容で、ひとり暮らしのふくろうくんの毎日を垣間見て、ふくろうくんに聞こえないように笑うのをこらえてしまいそうになります。自分の中に浮かんだ疑問や発想に真っ直ぐに向き合うふくろうくん。その姿は、まさに子どもそのもの。
〈なみだのおちゃ〉では、ふくろうくんは溜めた涙でお茶を入れようと、これまでの悲しかったことをひとつずつ思い出して、こぼれる涙をためていきます。自分の悲しみと向き合うことって、思うほど簡単なことじゃないと思うのですが、ふくろうくんはこれをやってのけます。生きるということに正面から向き合っているふくろうくんの姿に、悲しみをうまくかわしたり、なかったことにしがちな大人の私たちは、子どもたちとはまた違った気持ちで、この作品と出会うのかもしれません。
読み終えた後、「幸せって、もしかしたらこういう毎日のことなのかもしれない」ということを、そっとやさしく手渡しされるような、そんな時間をくれる素敵な作品です。
今回ご紹介した本
『ふくろうくん』
作:アーノルド・ローベル
訳:三木 卓
文化出版局
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/