ページを開くたび、甘い香りが漂うよう『くだもの ぱくっ』

ページを開くたび、甘い香りが漂うよう『くだもの ぱくっ』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑮


果物のおいしい季節。今回は、この時期にぴったりの赤ちゃん絵本をご紹介したいと思います。
表紙のおいしそうなリンゴ。お話の最初のページは、皮付きのみかんが登場します。次のページには、皮を剥いて、白い筋まで細かく描かれたミカンが出てきて、「むきました ぱくっ」と言葉が添えてあります。次のページには、皮付きのバナナが描いてあります。黒いところもあって、ちょうど食べごろのおいしそうなバナナ。その次のページには、半分皮が剥いてあるバナナ。また「むきました ぱくっ」とあります。甘い香りが漂うようです。このようなリズムで、ぶどうに、メロンと、次々に果物が登場します。最後の果物は、現代的な思わぬ展開で楽しませてくれますよ。
どの果物も、光やみずみずしさを感じることができるほど、細密に表現されています。この絵が「浮世絵」の手法で摺られている木版画の絵本だと知った時には、本当に驚きました。
皮を剝いたミカンの絵を見た瞬間、あるイメージがふっと浮かびました。ふくふくとした手が、器用にミカンの白い筋を取り除いている様子です。きっと、祖母の手です。幼い頃の私は、祖母の横で、ミカンを食べられるのを今か今かと待ちながら、その所作を見ていたのでしょうね。祖母お手製の、かぎ針編みのこたつカバーの柄まで思い出してしまいました。何だか懐かしい気持ちがします。

ミカンの白い筋なんて気にも留めずに大口を開けてほおばれるようになった大人の私は、この本を小さなお友だちと楽しむのが大好きです。ある小さなお友だちに読んだときのこと。その子はおもむろに絵本に近づいてきて、果物の絵を食べようとするのです。その様子の愛らしいこと。その姿に見とれていたら、絵本が大変なことに…。ついには、ページとページがくっついてしまい、わが家のこの絵本は2代目になってしまいました。

まるで本物のように見える果物たち。今日は、ご家族で食後のデザートに、絵本はいかがでしょうか?

今回ご紹介した本

『くだもの ぱくっ』
著:彦坂有紀・もりといずみ
講談社

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芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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