ワクワクがぎっしり詰まったしかけ絵本『ちいさなみどりのかえるさん』
書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑨
山のふもとのわが家の田んぼは、もう田植えが終わるころ。田に水が行き渡るころ、よく見かけるカエルの卵。あっという間にたくさんのオタマジャクシが顔を出す。今は環境の変化で見かけることも少なくなってきたけれど、卵やオタマジャクシのときは水中にいて、カエルになると陸上でも暮らすことのできるこの不思議でたまらない生き物に、幼い私は心奪われたことを思い出します。
この絵本には、そんな不思議で愛おしいカエルの成長が描かれています。はじめは卵。それからオタマジャクシになって、足が生え、カエルに成長する。めくりしかけ絵本になっていて、本を開くと花のようにページが広がります。次のページへの期待感がどんどん膨らみ、ワクワク感と重なって、全部めくり終えた時、絵本は満開の花のように広がって、大きな池に。それを見た子どもたちの弾けるような笑顔がたまらなくて、ついつい手にとってしまう一冊です。
私たちの日々の生活は、テレビでも書籍でも、より見やすく工夫されてきていますよね。テレビの出演者の会話が字幕で表示される時代。私たちは視覚に頼ることが多くなり、情報に対してとても受動的になってきているように感じています。その一方で、想像を巡らせたり、疑問に思ったり、「心」のように見えないもの、つまり「見えないけれど、そこに確かにあるもの」を感じようとする機会は、ずいぶんと減ったように思います。
地中にあった種が芽を出し、卵がかえって雛やオタマジャクシになり、動物たちが小さな命を育むことを目にすることの多い、この季節。「見えないけれど、そこに確かにあるもの」は、実はとても大切なものだったりするのではないでしょうか?
連休中は、これまでのように人の多い場所へのお出かけは控えなくてはならない状況ですが、せっかく気候の良い時期ですから、絵本を片手にお子さんとお散歩などはいかがでしょうか。のんびりできる連休だからこそのお楽しみ。私たちは、最初から知識を与えるのではなく、まずは子どもたちが自らの力で何かを発見し、その喜びや楽しみを味わう姿をそっと見守るのも、たまには良いかもしれませんね。
今回ご紹介した本
『ちいさなみどりのかえるさん』
作:フランセス・バリー
訳:たに ゆき
大日本絵画
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/