泣けるってとっても幸せなこと『ひとはなくもの』

泣けるってとっても幸せなこと『ひとはなくもの』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(27)


子どもの頃の私は、自転車に乗るのも、鉄棒も、水泳も、何をやっても器用にこなせず、必ず泣いていました。泣かないと、何一つ上手にならなかったそうで、家族から「泣きべそ」と言われていました。
この絵本の主人公のすみれちゃんも、よく泣いていて、他人とは思えない気持ちになります。お母さんは「なくこはきらい」っていつも言うけれど、悲しくても泣くし、怒られても、石につまずいて転んでも、痛くて泣いちゃいます。怖くても、けんかしても、ゲームに負けて悔しくても、そして笑いすぎても泣いてしまいます。
最後のページで、すみれちゃんは「ひとはなくもの」と言います。そしてお母さんにとどめのひとことを! それは読んでみてのお楽しみですが、きっとすみれちゃんを抱きしめたくなっちゃうと思いますよ。

あとがきを読むと、この絵本は作者みやのすみれさんが、小学校1年生の頃に書いた紙芝居が元になっているそうで、絵を描かれたのは祖父であるやべみつのりさんです。すみれちゃんが泣いている姿が、とてもエネルギッシュで、ありのままで、愛おしく感じられます。どのページも祖父の目線だからこそのあたたかさで溢れていています。

子どもたちが育つ環境でも、泣かずに我慢することが美徳とされる場面に出くわすことがありますが、泣くのは子どもたちにとって必要なことなのかもしれないなと思います。人は、受け止めてくれる人がいるからこそ泣けるのではないかと思うからです。本当に辛くて、独りぼっちの時にはきっと、すみれちゃんみたいに泣けないのではないでしょうか。泣くことができるって、もしかすると実は、とっても幸せなことなのかもしれません。その幸せを確かめるように「ひとはなくもの」なのですね。きっと。みんな泣いてもいいんだよ、って教えてくれるようなやさしい絵本です。

今回ご紹介した本

『ひとはなくもの』
作:みやの すみれ
絵:やべ みつのり
こぐま社

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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