とっておきの瞬間を楽しんで!『ちちんぷいぷい』

とっておきの瞬間を楽しんで!『ちちんぷいぷい』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(25)


この絵本を読んですぐに思い出したことがある。
幼い頃、私はひとまわり年上の従兄によく遊んでもらっていた。その遊びのひとつが手品だった。今考えればすぐにタネのわかる手品。
空っぽの右のポケットを私に見せ、そのポケットからお菓子を出すと言う。私は従兄の言う通りに、ポケットの外側に手を置いて「ちちんぷいぷい、お菓子出てこい!」と呪文を唱える。すると、従兄はポケットに一度手を突っ込むと、次に何かを握り締めたような手をポケットから出して、私の目の前で広げる。するとそこには、キャンディーや小さなチョコレートがあって、それはもう大興奮したものだ。時には、小さなボールや鈴が出てくることもあった。
何もなかったはずのポケット。「ちちんぷいぷい」と呪文を唱えると、お菓子が出てくる。この呪文を唱える度に、次に起こることへの期待感がふくらんだ。

この絵本に登場するキツネさんは、他の動物たちの好きな食べ物をマジックで出していきます。リスさんにはドングリ。ウサギさんにはリンゴ。おサルさんには柿。クマさんには何だったと思いますか? マジックの種明かしが最後に出てきて、その様子もまた、とても愛らしい。
作品名は「ちちんぷいぷい」となっているが、この呪文が文章中に出てくるのは最後だけ。子どもたちとこの作品を楽しむときには、読み手が「ちちんぷいぷい」と言葉を添えると良いのだろうなぁと思う。「ちーちんぷいぷい」だったり、「ちちーんぷいっぷいっ」だったり、そこが読み手に委ねられているような気がする。「その読み手と聞き手の間にしか生まれない、とっておきの瞬間を楽しんで」というメッセージなのかもしれない。
今はもう、お星さまになった従兄。私にワクワクをくれた彼は、きっと天国でも、やさしいまなざしでちいさなお友達を見つめ、左のポケットを膨らまして、楽しく遊んでいるにちがいない。

今回ご紹介した本

『ちちんぷいぷい』
文:谷川俊太郎
絵:堀内誠一
くもん出版

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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