それでも扉を開けたくなる『画本 宮澤賢治 注文の多い料理店』

それでも扉を開けたくなる『画本 宮澤賢治 注文の多い料理店』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(47)


この夏休み、私が運営するフリースクールの子どもたちは修学旅行で岩手を旅します。岩手は見どころいっぱいのとても魅力的な土地ですが、その中から子どもたちが選んだ場所のひとつが、花巻市にある『宮沢賢治記念館』です。このお話は、その宮沢賢治の作品の中でも、最も印象深いもののひとつではないでしょうか?
少し縦長で、手触りの良い紙。手に取ったその時から、不思議な世界に誘われます。本の表紙と、カバーに描かれている絵が違っているんですが、ここではその理由は内緒にしておきます。
ちょっぴり嫌みで傲慢な二人の紳士が狩りの途中で道に迷い、あるレストランを見つけるところからお話は始まります。ガラスの開き戸に

「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」

とあり、ふたりは喜んで中に入ります。扉を開けるごとに現れるメッセージ。

「ことに肥った方やお若いお方は、大歓迎いたします」
「鉄砲と弾をここへ置いてください」
「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください」


読み手はだんだんと違和感を感じはじめるのですが、お話の中の二人の紳士は、空腹からか、良い方に想像を巡らせ、言われた通りにして、奥へ奥へと進みます。そして最後の扉の前にたどり着きます。最後のメッセージを読んだ二人の紳士は、この西洋料理店がどんな場所なのかようやく気づきます。さあ、二人はどうなるのでしょう。

細密に描かれた絵。独特の色合い。このお話の不思議さと相まって、読み手は息をするのも忘れそうです。最後のおまけのページは、読み手に想像の余白をくれる趣向を凝らしたものに。
実は、『宮沢賢治記念館』の敷地内には、このお話に出てくる「山猫軒」という名前のレストランがあるんです。子どもたちがその場所を見たら、きっとこのお話を思い出して、ドキドキしながらその扉を開けることでしょうね。

今回ご紹介した本

『画本 宮澤賢治 注文の多い料理店』
作:宮澤賢治
画:小林敏也
好学社

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

こちらもあわせてチェック!