人生という物語に添えたい『たくさんのドア』

人生という物語に添えたい『たくさんのドア』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と④


清らかに広がる秋の青い空。木々も色付いて、そのコントラストに心奪われる。銀杏の街路樹の下を歩く、通学途中の中学生たち。彼らの顔つきを見ていると、「あぁ、あの子は3年生なんだろうな」と気付いてしまうことがある。なぜなら、中学3年生の子どもたちは、もうそろそろ、志望校を決定する頃だから。

自分の実力に合った学校へ進学して、自分のペースで学びを続けたいと思う子もいれば、受験勉強を頑張って、どうにかして希望の高校へ行きたいと望む子もいる。そして、志望校を決定するこの時期に、人生で初めての苦悩を味わう子もいる。何度も何度も子どもたちと話し合い、苦渋の決断をしなくてはならないこともある。その子どもたちのそばにいて、私たちに何ができるのか。周囲の励ましさえもうっとうしく感じる思春期の子どもたちに、掛ける言葉が見つからないことも。

そんな時、ついつい絵本に頼ってしまう私。今回紹介する『たくさんのドア』の中には、子どもたちに伝えたい言葉が散りばめられている。生きていく中にある、たくさんのドア。そのドアを一つひとつ、自分の力で開けていく。その向こうに何が待っているのか。どんなふうにドアの向こうを歩いていくのか。自分の中にある強さ、勇ましさ、限りない力。そして、守られている温かさがあるということ。

絵本の表紙を開いた次のページを「扉」と言うけれど、今、受験生のみんなが開けようとしている、人生という物語のドア。そのノブをキュッと握って立っているその場所から、この晴れた爽やかな空を、美しさに満ちたこの世界を、顔を上げて見てほしい。きっと君の中にある何かの力が湧いてくるって思うんだ。

今回ご紹介した本

『たくさんのドア』
文:アリスン・マギー
絵:ユ・テウン
訳:なかがわ ちひろ
主婦の友社

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芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/