ページをめくるたびに鼓動が高まる『おまたせクッキー』
書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑳
親戚やお友達のおうちを訪れるのも、はばかられる今日このごろ。でも、絵本の中の世界は、気兼ねなく人が行き来していて、何だかホッとします。
このおはなしでは、ビクトリアとサムのお母さんがおうちでクッキーを焼いてくれます。チョコチップクッキーかな? とってもおいしそう。全部で12枚あります。大きなお皿いっぱいのクッキー。2人で分けると6枚ずつ食べられますね。
ピンポーンとベルが鳴って、お隣さんが2人やってきます。そこで、クッキーを4人で分けることにしました。クッキーは3枚ずつ食べられます。
すると、またピンポーンとベルが鳴って、お友達が2人やってきます。12枚のクッキーを6人で分けるのですから、1人2枚食べられます。
そのとき、さらにまたピンポーンとベルが鳴ります。いとこが6人やってきました。全部で12人。クッキーは12個。1人が1枚だけ食べられる計算になります。
さぁ、食べようとしたとき、再びベルが鳴ります。さて、みんなは扉を開けるかな?
最後の展開は、ぜひ手にとってご覧くださいね。
ピンポーンとベルが鳴るたびに、絵本の中のみんなが右端に描かれている玄関の扉の方に視線を移したり、猫が移動していたり、床の足跡が増えていたり、とても細かな描写にも心を奪われます。
また、設定場面は一度も変化しないのに、いや、変化しないからこそ、自分もその場に居合わせたような気持ちになれて、ページをめくるたびに鼓動が高まっていくのを感じていただけると思います。
私が日々出会う子どもたちと同じように、絵本の中の子どもたちも喜びを分け合います。「奪う」より「分け合う」ことの方が幸せな気持ちになれることを知っている子どもたちに学ぶのは、大人の私たちなのかもしれませんね。
今回ご紹介した本
『おまたせクッキー』
作:パット・ハッチンス
訳:乾 侑美子
偕成社
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/