子どもが自分の食物アレルギーを理解することの大切さ
9月8日、エフコープ那珂川店で九州アレルギーケア研究会とエフコープとの共同で「親子アレルギー教室」を開催しました。
このイベントは、アレルギーのある子どもが自分自身の食物アレルギーを理解することを目的に開いたもの。今回のイベントを企画した、九州アレルギーケア研究会の事務局代表で国立病院機構福岡病院の特別診療役を務める小田嶋博(おだじま ひろし)先生と、同研究会のメンバーで国立病院機構福岡病院の看護師で、小児アレルギーエデュケーターでもある池田奈央(いけだ なお)さんに、子どもが自分の食物アレルギーを知ることの大切さなどを聞きました。
親と子、それぞれがアレルギーと向き合う場に
小田嶋博先生(左)と、看護師の池田奈央さん
お子さんたちがとても楽しそうに、いきいきとイベントに参加していた姿が印象的でしたが、いつからこのような学習会を開催されているのでしょうか?
池田さん:
2013年に九州アレルギーケア研究会が発足して以来、年に1~2回ほどの頻度で、親子で参加できるアレルギー学習会を開催しています。今回が7回目で、エフコープさんとは、このイベントが初めての共同企画でした。主な目的は、お子さんが自分自身のアレルギーのことを知り、周りにうまく伝えられるようになること。合わせて、親御さんがお子さんの食物アレルギーとの向き合い方を考える機会になればと思っています。
「知識がある」=「理解している」ではない
なぜ、子どもが自分の食物アレルギーを知ることが大事なのでしょうか?
小田嶋先生:
どんなに家庭で気を付けていても、子どもが保育園や幼稚園、小学校などで集団生活を送る中では、間違って食べてしまう可能性があります。それを防ぐためには、子ども自身が「自分にどのような食物アレルギーがあり、それがどの程度のものなのか」を知っておく必要があります。また、子どもはいずれ親の元を離れていくものです。そのときに自分の身を守るためにも、自分自身のアレルギーについて知っておくことが大切です。
ただ、知識があることと理解していることはイコールではないと思っています。私が考える「理解」とは、実際の体験や経験を積み重ねて学ぶもの。ですから、私たちの学習会では実際に体験してみることを大切にしています。今回の学習会でも、エフコープさんにご協力をいただき、「実際のお店で自分が食べられるお菓子を選ぶ」という企画を盛り込みました。
食物アレルギーにとらわれず、その子の成長を総合的に見守る
子どものアレルギーと向き合う上で、親として心掛けておくことなどはありますか?
小田嶋先生:
「食物アレルギーにとらわれず、その子にとっての成長を総合的に見守る」と、大きな視点に立って考えることが大事だと思います。もちろん、心配な部分に目がいってしまうのは、親として当たり前のことです。ただ、そこばかりを見て親が不安がっていたら、子どもは余計に不安になります。まずは親が安心することです。
食物アレルギーの約8割は、小学校に入学する前に治ります。しかし、中には小学6年生になっても食べることができないケースもあります。食べられなくてもいいと思うことも、場合によっては大切なこと。ですから、私は親御さんたちに「食物アレルギーのことだけにとらわれず、一歩引いて見るようにしましょう」と伝えるようにしています。
本人の選択を受け止め、支えていくことが大事
池田さん:
「ほかの子は食べられるのに、自分だけが食べられない」と子どもが思っていることがかわいそう…。そう思っている親御さんは多いです。でも、治療や日常生活において親の考えと子どもの考えが必ずしも同じとは限りません。
例えば、親としては「卵は食べられるようにしてあげたい」と思っていても、子どもは「もう、卵は食べなくてもいい」と思っているかもしれません。食物アレルギーに対して、どのように向き合っていくのか。最終的には、治療や日常生活をどう過ごしていくのかということを決める過程において、徐々に本人が参加していくことも大切です。
本人の選択をしっかりと受け止め、自立のサポートをしてあげること。それが、ご家族や私たち医療スタッフの役割だと思っています。
エフコープのお店で実際に買い物を体験!
右上:みんなで食品のアレルギー表示を確認!
左下:スタッフにサポートされながら、自分の「食物アレルギーカード」を作成
右下:九州アレルギーケア研究会が作ったオリジナルの「食物アレルギーカード」
今回のイベントに参加した子どもたちは、自分の食物アレルギーを相手にうまく伝えるための「食物アレルギーカード」を作ったり、アレルギー反応が出た時に、周りの人たちにどう知らせるかをみんなで考えてみたり、とさまざまな企画を楽しんでいました。
中でも子どもたちが目を輝かせていたのが、お店での買い物です。決められたお金を手に、お店に並んでいるお菓子を選ぶ子どもたち。あれこれと目移りしながらも、パッケージの裏面に書かれているアレルギー表示のチェックは欠かしません。
「お店の棚にずらーっと並ぶお菓子の中に、自分が食べられるものや食べられないものがあることを実感する。それも、子どもたちにとっては貴重な経験です」と池田さん。子どもたちの様子を眺めていた親御さんからも、「自分で選ぶ、というのは初めての経験。1人でもお買い物できるんだ、という自信につながると思いますね」などの声が聞かれました。
経験を通して理解する。それが何よりの処方箋
最後に、小田嶋先生にこのイベントを通して伝えたいことを伺いました。
小田嶋先生:
買い物の楽しさや、経験することの大切さですね。食物アレルギーと向き合う中で一番大切なのは、対処法をきちんと知っておくこと。もちろん、子どもが誤食しないに越したことはありません。ただ、間違って食べてアレルギー症状が出た場合でも、「なんで食べたの!」と責めるのではなく、きちんと対処した上で、「こうならないように、次は気を付けようね」と教えることが大事です。自分の食物アレルギーの症状の程度や、その時にどうするのか体験することも、子どもにとっては貴重な経験なのですから。
見たり聞いたりして知ったことよりも、体験したことの方が記憶に残りますよね。食物アレルギーも同じで、経験値を積み重ねていくことが大切なのです。経験を通して、理解する。食物アレルギーへの対処法は、それに尽きると思いますね。
profile
小田嶋博先生(左)
日本アレルギー学会指導医・専門医であり、日本小児アレルギー学会監事、日本小児臨床アレルギー学会監事を務める。また、国立病院機構福岡病院の特別診療役。
池田奈央さん(右)
「日本小児臨床アレルギー学会 小児アレルギーエデュケーター」であり、国立病院機構福岡病院の看護師。三児の母でもある。