料理家・広沢さんの、気負わない食育 第2話

料理家・広沢さんの、気負わない食育 第2話

福岡を中心に活躍している料理家・広沢京子さんに、3回にわたって食育についてお聞きしています。小学校3年生になる息子の楓(かえで)くんと広沢さんの、台所からひも解く日常のあれこれ。

第1話では、広沢さんが日常の中で楓くんに働きかけていることを伺いました。第2話となる今回は、子どもに食を通じた経験を積極的にさせることの大切さについてのお話です。

産地にも買い物にも、できるだけ息子を連れて行く

長野県のりんご農家に訪れた時の様子。

仕事柄、農産や畜産の生産者と広く交流がある広沢さん。産地に出向く際には、息子の楓くんを一緒に連れて行くことも多いそうです。生産者とふれあう機会に恵まれた楓くんは、物心つく頃から、肉や野菜がどんなふうに育てられているかを見聞きし、経験してきました。広沢さんが近所の直売所に行く際にも、できるだけ一緒に出かけています。

広沢さん:
「産地で農作業を体験したり、収穫のお手伝いを一緒にしたりすることも多々あります。だから息子は、『このおじちゃんはカブの人』『このおばちゃんは白菜の人』という感じで生産者の方を認識しているようです。

例えば、産地で畑の土に触れた時の匂いや、感触。そういうところから子どもが知らず知らずに得るものや感じることって、きっといっぱいあると思うんです。子どもの頃の経験が記憶に蓄積され、知識として積み重なり、それが心の成長の糧になるのでは、と。

直売所ではいろいろな魚が丸のまま並んでいるので、『今日はどの魚にする?』って楓に選んでもらったりしてます」

親がやらせるのではなく、子どもがやりたいことをやってもらう


第1話
で、広沢家のおやつの定番・白玉団子についてお話ししましたが、楓くんにとってお団子の成形は、楽しい粘土遊びのような感覚。パンケーキづくりやケーキのデコレーションなども喜んで“担当”するのだとか。

広沢さん:
「息子には、よく台所の手伝いをしてもらいます。と言っても、こちらから強制的にやらせるのではなく、子どもがやりたいことをやってもらうスタンスで。

正直、子どもが手伝うと、かえって手間がかかったり、後片づけが大変になったりもしますよね。でも、そこはあえて目をつぶって(笑)。極力、手出しをせずに自由にさせる代わりに、自分が作ったものは自分で責任を持って食べる。それをルールにしています」

できるだけ台所に立たせる。汚しても神経質になりすぎずに


キッチンであれこれと働く母の姿を見てやって来た楓くんが、私たちの前で卵焼きを作ってみせてくれました。慣れた手つきで卵を割り、砂糖を加えて混ぜた卵液を熱したフライパンへ。そばで見守りつつ、時々見かねて手を貸す広沢さん。キッチンに、ふたりの微笑ましい姿がありました。


広沢さん:

「少々形が悪くなっても大丈夫。巻き簀で巻いて整えてあげればいいんです」

周りを汚してしまっても、失敗かなと思っても、神経質にならずに、臨機応変に。できあがった卵焼きはあっという間にかえで君のお腹におさまりました。

“ながら調理”をさせないこと、褒めてあげること


さて、楓くんに台所を手伝ってもらう際、広沢さんが心掛けていることが2つあります。

広沢さん:
「まず、“ながら調理”をさせません。料理に集中するために、テレビを観るなど他のことをしながらの手伝いはNG。テレビが観たいなら手伝いはさせません。包丁やコンロを扱う調理は危険も伴いますから。そこは徹底しています。

もう1つは、『よくできたね』とか『上手になったよ』などと、必ず褒めるようにしています。反対に、うまくできなくても、よほどのことがない限り叱ることはしませんね」

日常生活の中で、ごく自然に、構えることなく、楓くんに台所からさまざまな経験を促す広沢さんの食育。参考になることがたくさんありそうですね。

第3話では、広沢さんの食育の考え方について、率直なお話を聞いてみることにします。


◎エフコープでは、産地を訪れて収穫体験をしたり生産者と交流したりする「産地交流」を開催しています。興味のある方はこちらから。


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広沢京子(ひろさわきょうこ)さん

広沢京子(ひろさわきょうこ)さん

広沢京子(ひろさわきょうこ)さん
料理家。千葉県出身。フードスタイリストのアシスタントを経て独立。2009年より活動の拠点を福岡へ移し、レシピ制作、スタイリング、イベント、飲食店のプロデュースなどを幅広く手がける。生産者と家庭の食卓をつなぐ活動に力を入れている。著書に『家だから、いっぱい野菜』(幻冬舎)、『こうかん、ぶつぶつ』(millebooks)など。