帽子の中から出てきたのは…『アブラ・カダブラ・カタクリコ』

帽子の中から出てきたのは…『アブラ・カダブラ・カタクリコ』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(48)


先日、とある老人ホームを訪れた際、私は面会の相手をテーブル席で座って待っていました。隣のテーブルには面会に来る誰かを待っている様子の高齢のご婦人がいらっしゃいました。お互いに少し時間を持て余していて、軽くあいさつを交わしましたが、ちょっと沈黙に耐えられなくなってしまった私は、何か一緒に時間を過ごすきっかけになるものはないかと周囲を見回しました。が、特にこれというものもなく、沈黙は続いたままでした。その日はそのまま面会を終えて帰りました。
ちょっぴりの後悔みたいなものを持って帰ってしまった私は、今度同じ状況になったら何か一緒に楽しいことできないかな?なんて考えていました。根っからの不器用で、恥ずかしがり屋の私ですが、あんな時、マジックでもできたらいいのになぁ…と、思い出したのがこの絵本。
帽子の中から出てきたのは、魔法が使える主人公のウサギのハティー。帽子に向かって魔法の杖を向け、

アブラ・カダブラ・カタクリコ

と唱えると、いろいろな生き物が出てきます。「カタクリコ」っていう響きにクスッと笑ってしまいますよね。帽子の中からネコやリスなどの小さな生き物から、予想外の大きなものまで出るわ出るわ!実は出てくる前に、帽子の中に少しだけヒントが見えていて、「あの動物かな?」「この生き物かな?」と期待感が膨らみます。ハティ―が、もう空っぽかな?と帽子の中をのぞき込むと、出てきたのは…。結末は読んでからのお楽しみ。

絵本は小さい人たちが楽しむものと思われがちですが、ご年配のみなさんに紹介するときも、とても楽しんでくださいます。冒頭の施設では、読み聞かせのボランティアを募集していると聞いて、申し込んでみました。あのご婦人がどんな反応をしてくれるか、ワクワクしながらその日を待っています。

今回ご紹介した本

『アブラ・カダブラ・カタクリコ』
作:きたむらさとし
BL出版

profile

芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/

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