小さな奇跡の物語『せかいいちしあわせな クマのぬいぐるみ』

小さな奇跡の物語『せかいいちしあわせな クマのぬいぐるみ』

書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と⑤


この時期、賑やかなクリスマスパーティーや、サンタさんに手紙を書くこと。カウントダウンしながらクリスマスを待つアドベントカレンダーをめくったり、ツリーを飾りつけるのも楽しいけれど、実は私には、他にも楽しみがあります。寒い夜に、頬が引き締まるように冷たく、澄んだ空気の向こうに広がる星を眺め、さまざまなことに思いを馳せながら、ささやかな時を過ごすこと。

とくに今年は、思いもよらない状況の中で、今も病と向き合わざるを得ない方々がたくさんいることを、その方々がお元気になられることを心から祈る夜になっています。
今回は、星空を見ていたら読みたくなったある一冊の絵本を紹介します。

今から60年も前のこと。メアリー・ローズという女の子が、おこづかいを貯めて、クマのぬいぐるみを買いました。「ウーウー」と名前を付けて、とても大切にしていましたが、ある日、そのぬいぐるみを電車の中に忘れてしまったのです。一生懸命に探して、駅の忘れ物置き場にも行ってみましたが、ウーウーは見つけられませんでした。

その後、ウーウーはロニーという男の子の家にもらわれましたが、リサイクルショップに売られ、今度は双子の男の子のおうちへ。そこでは、ボールの代わりにされるなど、乱暴に扱われます。その後、チャリティーショップに連れていかれ、そこからベロニカの家へ。そこでも大変な目に遭い、おもちゃの病院で治療してもらうウーウー。絶望的な思いに駆られ「早く、誰か迎えに来てよ」とつぶやきます。治療を終え、ウーウーはアンティークショップのショーウインドウに飾られることに。そしてクリスマスも近づいたある日のこと、アンティークショップにある老女が訪れます。その女性とは…。

偶然の重なりがあり、苦難の日々を乗り越えたウーウー。その経験は、何事もなくメアリーと60年を過ごすのとは、きっと何かが違っていたことでしょう。
今、世界中で起こっている暗闇のような日々も、この経験があるからこそ感じられる、最高のクリスマスが迎えられる日が来ると信じたいですね。みんなの心からの願いが夜空の星に届きますように!

メリークリスマス!

今回ご紹介した本

『せかいいちしあわせな クマのぬいぐるみ』
作:サム・マクブラットニィ
絵:サム・アッシャー
訳:吉上恭太
徳間書店

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芳野仁子(よしののりこ)さん

芳野仁子(よしののりこ)さん

子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/