生きていることを確かめるように『生きる』

青空を背に、みずみずしい緑が風に揺れる、心地よい季節ですが、テレビでは「五月病」の特集が放送されていました。新しい環境の中で、私も含め、みんなそれぞれに新しい生活をがんばって送っていますよね。

随分若い頃、私も猛烈ながんばり屋さんのひとりでした。社会人として責任を持って生活すること。それってとても大切なことなんだけれど、そういう緊張感のある毎日に、ちょっとくたびれた。そんなときに手にした本の中に、この『生きる』という詩がありました。

『生きているということ』
『いま生きているということ』

という言葉ではじまる5連の構成。
その中には今を「生きている」と感じる瞬間がたくさん並んでいます。絵は日常のさまざまな場面が描かれていて、温度や匂いや音が感じられます。きっとみなさん、それぞれに「あ～！そうそう！」と共感できるページが見つかるはずです。

毎日に追われていると、自分が確かに今「生きている」ということを、どこかに置いてきてしまったような感覚になることがあります。でも、この作品に触れると、それを取り戻せるように思うのです。

特に私は

『あなたの手のぬくみ』

というフレーズが好きです。誰かと生きている今が、私にとっての「生きているということ」なのかもしれません。ですから、出会った子どもたちに、この「ぬくみ」をその手に渡すようにしています。そして、大きくなった子どもたちから届く手紙にはよく、この「ぬくみ」を渡された時のことを今も覚えていると書いてあります。

「いま生きているということ」を感じるのは一瞬だけれど、そこからずっとずっと先につながっている。そう考えると、今泣いている自分も、怒っている自分も、まるっと含めて、それでもいいんじゃないかなって思えたりするのです。

『生きる』
詩：谷川俊太郎
絵：岡本よしろう
福音館書店