おとなも子どもも考えてほしいな『わたしのせいじゃない ーせきにんについてー』
書店「からすのほんや」店主・からすちゃんが選ぶ、子どもと、本と(46)
私の運営するフリースクールの中学生は、送迎車の中で、ふいに名言を言うことがある。ある生徒が、こんなことを言った。
「責任のない自由なんてないですよね」
これには驚いた。私たちはいつも、学校に行かない選択も、フリースクールに通う決断も、自分の意志や考えを大切にした方が良いとは伝えている。それは、何を選んでも「あのとき、ああしとけばよかったなぁ」と、後悔してほしくないなという思いからだった。
選んだ先に起こったことを、自分で引き受けること。中学生にとっては、大変な苦しさを伴うこともある。彼はその山をなんとか越えたのかもしれない。
さて、この絵本は、そんな「責任」について考える機会をくれる作品です。学校の教室でひとりの男の子が泣いているところからお話は始まります。周囲の子どもたちのさまざまな発言が描かれています。
『はじまったときのことを みていないから どうしてそうなったのか ぼくはしらない』
『ぼくは こわかった なにもできなかった みているだけだった』
『ほかのみんなが たたきはじめたのよ わたしのせいじゃないわ』
などなど、みんな自分のせいじゃないと口にします。
本当にそうでしょうか?
「責任」という言葉を、遠ざけがちな大人も多い世の中。課題や問題を、自分事として考えず、誰かがやってくれるだろうと思うこと。私もそんな気持ちになってしまうことがあります。
日々の中のささいなことかもしれない。けれど、そのささいなことへの私たちの姿勢を見直さない限り、戦争も、自然破壊も、貧困も、真の解決には結びつかないのではないか。そんなことを考えるきっかけをくれます。これからの時代を生きる子どもたちに届けたい、珠玉の一冊です。
今回ご紹介した本
『わたしのせいじゃない ーせきにんについてー』
文:レイフ・クリスチャンソン
絵:ディック・ステンベリ
訳:二文字 理明
岩崎書店
profile
芳野仁子(よしののりこ)さん
子どもの本とおもちゃの専門店「からすのほんや」店主。雑誌や新聞で絵本や子育てに関するコラムを執筆するほか、子育てに関する講座の講師も務める。
小学生対象のフリースクール「みんなのおうち」、考える力を楽しく養うキッズスクール「ひみつの国語塾」を運営。「一般社団法人 家庭教育研究機構」代表理事。
からすのほんやホームページ
http://karasubook.com/