絵本作家「ザ・キャビンカンパニー」の、子育ては波乱バンザイ！　第２話

阿部健太朗（あべけんたろう）さん、吉岡紗希（よしおかさき）さん夫妻による絵本作家ユニット「ザ・キャビンカンパニー」。廃校となった小学校をアトリエに、創作活動を行うかたわらで、一喜一憂しながら一人娘を育てる日々は、絵本のストーリーにも負けないほどのドキドキやハラハラに満ちています。第１話に引き続き、今がかわいい盛りの芽生（めい）ちゃんの波乱万丈な子育てをお届けします。

芽生ちゃんが生まれてひと月後、二人には中国での展覧会の話が舞い込んできました。

吉岡さん：
「生後１カ月の乳飲み子を抱える母親ですから、本来なら育児を優先すべきなのかもしれません。でも、作品を海外に広めるまたとないチャンスですから、なんとしても私も現地に同行したかったし、私たちをもっと知ってもらいたいという強い思いもありました。で、あれこれ悩んだ挙げ句、娘を実家の母に預けることにしたんです」

けれども、出産後間もない海外への旅は、思った以上に大変だったようで…。

吉岡さん：
「母には問題なく預けられたものの、困ったのは私の方。母乳だったので、ほとんど2時間おきに搾乳しなければならず、これにはかなり手間取りました。会場にいてもすぐにおっぱいが張ってくるので、落ち着いてお客さまと話すこともできません。私がしょっちゅうトイレに行くから、現地の男性スタッフはすごく不思議がっていましたし、お腹でも壊しているのかと心配していたみたいです」

阿部さん：
「娘をお義母さんに預けてまで海外に旅立つことの抵抗感や、娘を置いて行く後ろめたさを抱えながらの旅でしたが、すごく救われたことがあります。

仕事でたまたま知り合った現地の方に、『いつも子どものそばにいることだけが正しい子育てではないよ』と声を掛けていただいたんです。自分のやりたいことがある時、そばに協力してもらえる人がいたら、それはとてもラッキーなことだから大いに頼るべきですよ、と。
『子育てのストレスから解放されるには、自分のやりたいことを積極的にやることが一番』と言われた時は、まさに目からウロコ。心がふっと軽くなりましたね」

子育ての先輩からのありがたいアドバイスによって、育児中もできる限り創作を犠牲にしないと決めた二人。それ以降、仕事現場には常に娘の芽生ちゃんの姿がありました。

吉岡さん：
「イベントの際や出版社での打ち合わせも、いつも娘が一緒。絵本作家という仕事柄、子連れでも違和感なく受け入れていただけたことはとてもありがたかったです。
打ち合わせをしながら娘におっぱいをあげることにも抵抗がなくなり、周りの人に失礼にならないよう、胸を上手に隠しながら授乳できる技も身につきましたよ（笑）」

ただ、その頃の芽生ちゃん、今度は頑固な抱き癖がついてしまい、またまた二人を大いに困らせることに。

阿部さん：
「つわり地獄の後は泣き地獄。娘は甘えん坊で人見知りがすごくて、四六時中、抱っこしてあげていないとダメなんです。仕方がないので、当時は必ず妻か僕が抱いたりおぶったりしながら仕事をせざるを得ませんでした。大きな荷物を抱えて絵を描いているような状態ですから、1日が終わるともう、ぐったりです。

夜は夜で、すさまじい夜泣きに悩まされました。深夜に外に連れ出してあやして、ようやく泣き止んだので連れて帰って寝かせるとまた嵐のように泣き出す。この繰り返しで、何度お手上げ状態になったことか（笑）」

そんな芽生ちゃんも今は２歳。保育園に通うようになり、二人はようやく創作に専念できる時間もできましたが…。

阿部さん：
「今はイヤイヤ期の真っ盛り。ご飯を食べさせようとしても『イヤ』、服を着せようとしても『イヤ』。その都度『じゃあパパが先に食べようかな』とか『ママがこの服着ようかな』などと二人のどちらかを経由しないと言うことを聞かないので、とにかく面倒（笑）。何をするにも時間が掛かって仕方ありません」

こんなふうに、なんだかんだと戸惑いながら悩みながら、たくさんのことを経験した二人。子育てについて今、どんなことを思うのでしょう。

吉岡さん：
「妊娠・出産・育児と段階を踏むたびに、予想だにしないようなことが次々と押し寄せてきては途方にくれたり悩んだり、時に激しく落ち込んだり。でも、当然ですが、どんなこともすべていつかは終わるんですね。
つわりも夜泣きもイヤイヤ期も子どもの成長の証ですから、本来ならとても喜ばしいこと。でも、その渦中にいると喜んでいる余裕なんてありませんよね。

でも、どれほどの苦労も永遠に続くわけはなく、いずれは終わってしまいます。だから慌てなくてもいいし、必要以上に深刻に考えなくてもいいと思えるようになりました。

私たちは、娘のことで何かが起こるたびに『今が一番辛い時期だから』と自分たちに言い聞かせています。実際はそうじゃなかったりもするんですが（笑）、これ以上のつらさはないと思えば、乗り越えられることがいっぱいあると思います！
娘の子育ては、私たちの仕事にも少なからず影響しています。よりリアルに子どもの心をつかんで、楽しませる作品を作っていきたいですね」

「あまりにドタバタが続いたので、さぁ次は一体何が起きるんだろうと、子育てを楽しむ余裕ができました」。そんなふうに語る阿部さんと吉岡さん。二人の波乱万丈な子育ては、これからもまだまだ続きそうです。

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