“居場所づくり”から見える、子どもを育む大切なこと 第2話

“居場所づくり”から見える、子どもを育む大切なこと 第2話

福岡市西区生の松原にある「生の松原 子どもスコーレ」は、家庭でも学校でもない、子どもたちの居場所。主宰者の山下麻里(やましたまり)さんは、海辺に佇む「子どもスコーレ」で毎月、オリジナリティーあふれるワークショップを開いています。第1話では、そんなスコーレを山下さんが営むようになったいきさつやその思いについてお聞きしました。第2話では、スコーレのとりくみと、子どもたちへの接し方についてさらに話をすすめます。

スコーレのテーマは「遊びと学び」


元は畳店だったという古民家を改装した「生の松原子どもスコーレ」。「遊びと学び」をテーマに毎月2回、ワークショップを開催し、月2回空間を開放しています。

山下さん:
「絵を描いたりモノづくりをしたり、詩や物語を綴ったりと、内容はさまざまです。子どもたちが遊びながら学べるプログラムを用意して、素材やテーマ、技法などいろいろな角度から楽しんでもらえるよう工夫しています。
スコーレは子どもたちがのびのびと自由になれる場所。危険なこと以外、私たち大人は基本的に口を出しません」

オシャレでアーティスティックなスコーレの空間


それにしても、室内に飾られた作品も無造作に置かれたおもちゃも、かなりオシャレだったり、アーティスティックだったりします。

山下さん:
「子どもたちが想像力を働かせて創造できる場所として、年間を通して移り変わる自然や、さまざまな素材、アーティストやクリエイターによって表現されたものにも触れる機会を用意しておきたいと思っています。

私は出版社として子どもの本をつくったり、プランナーやデザイナーとして展示やイベントなどを開いたりする中で、アーティストや詩人、絵本作家、児童文学作家、料理研究家など、さまざまな分野で活躍しているクリエイターと出会います。そういったつながりがあることで、その方たちの展示会やワークショップに、スコーレの子どもたちが参加する機会に恵まれることも多いので、とてもありがたく思っています」

「上手だね」とは褒めない


ところで、スコーレで子どもたちと接する際に山下さんが心掛けていることはどんなことでしょうか?

山下さん:
「まず、子どもたちが手掛けたものに対して『上手だね』という褒め方はしないことです。『上手だね』という褒め言葉には、『上手』『下手』という評価の価値観が前提としてあって、それに対して発する言葉だからです。
だから『この色の組み合わせ好きだな~』『よく観察してたんだね』『色がジャンプしてるみたい!』といったように、何かと比較するのではなく、彼らが手掛けるそのものを見て私個人が受ける印象や、活動の過程でのおもしろさについて言葉を掛けるようにしています。

受ける印象は個々人で違うので、周りの大人や子どもたちどうしの関係の中で、いろいろな声が掛かる。そのことによって、改めて起こる“気づき”も大切にしたいと思っています」

できなくてもすぐに手を貸さない


山下さん:
「もう一つは、子どもができなくても、私のほうから手を貸しすぎないようにすること。子どもスコーレは、あくまで子どもが主人公。できないならどうすればいいかを子どもたちどうしで考えたり、しばらく制作をほったらかして、いいアイデアが浮かぶまで待ったりする。そういう時間を、大人のほうで早回ししたくないんです。
その日に私から提案した活動の過程で、例えば色づくりに試行錯誤しているうちに、そのことに夢中になって「成果物」に到達しなさそうでも、そのわくわくを無理に止めることはありません。

さらに言えば、子どもが『できない』となった時、私たちがすぐに手を出すことは、そこに大人が『こうすればいい』という正解を安易に作ってしまうことになります。でも、創造に正解はありません。もちろん他者から評価される失敗もありません。

技術的な習熟度、手先の器用さなどにも差があって当然。できないことは恥ずかしいことではない。そのことを感じ、子どもたちどうしでも『ちょっと手伝って、相談にのって』と言える環境をつくりたい。そんな経験をくり返す中で、おのずと仲間や作品を尊重したり、助けたりする気持ちも芽生えてくるのではないでしょうか」

ひたすら子どもを信じ続けることの大切さ


さて、このような形で子どもたちと接するようになった山下さん、子どもスコーレのオープンから6年が経ち、少しずつ息子さんとの向き合い方も変わってきたそうです。

山下さん:
「子どもが主体性を持って表現活動を行う中で、自己について知っていく。これは、子どもスコーレの子どもたちを見ていて、また、私も一緒に活動をしながら肌で感じたことです。

息子は高校2年生になりましたが、中学2年生の頃から再び学校に行かなくなり、今は通信制の高校で学んでいます。中学校でも、私から無理に学校へ行かせようとはしませんでした。大切にしているのは、子どもを信じること。彼はきっと彼なりにいろいろなことを考え、悩んだりためらったりをくり返しながら成長しています。

学校でもスポーツでも、子どもたちはあらゆるところで評点がつき、どの子もその集団での位置というものが何となく可視化されます。その基準の中での頑張りを讃えるのももちろんですし、家庭では気付かなかった部分が見えることもあるでしょう。ただ、その基準で表わされたものがその子の全てではありません。逆に親たちはその評価項目にはない、その子の素晴らしい部分もきっと山のように知ることができる。必要なのは、子どもの「今」を見守り、その存在を肯定することだと思います。

息子に関して言えば、勉強したくなったらすればいいし、遊びたい時にはしっかり遊べばいいと思っています。こちら側には彼が『こうしたい』と言った時に慌てない準備は必要だし、もちろん、こんなふうに言えるまでにはたくさんの反省や葛藤もありましたけどね(笑)」

スコーレの活動に今後もますます意欲的に


そんな息子さんも今ではスコーレに顔を出し、スタッフと一緒に子どもたちをサポートすることもあるのだそうです。

山下さん:
「子育てで悩んでいるお母さんに私から言えるのは、『ぜひ、自分や近しい人たちとは違う生き方や価値観を持っているいろいろな人と、親も子も接してみてほしい』ということです。

子どもスコーレのように、子どもどうしや親どうしでコミュニケーションをとったり、情報交換をしたりできる場所もあります。いろいろな視点を持つ人たちと接することで、ずっと悩んでいたことが別の価値観からみればあまり気にならないことだったり、不安からふっと解放される時間が得られたりするかもしれません。もちろん、さらに翻弄されることもあるかもしれませんが(笑)。
ただ、親と子は別の人間ですから、それぞれがいつか一番腑に落ちる言葉を受け取ることができればいいのではないでしょうか」。

子育てもようやく一段落した山下さん、子どもたちの無限の可能性を引き出すスコーレの活動に、今後はご自身の経験も大いに生かされることでしょう。

profile

山下麻里(やましたまり)さん

山下麻里(やましたまり)さん

「生の松原 子どもスコーレ」主宰。合同会社hact代表社員、財団法人子ども未来研究センター理事。グラフィックデザイナー、編集者としても活躍しており、子どもの本の出版社「アリエスブックス」の発行人として、出版に携わる。
・アリエスブックス
 http://www.ariesbooks.jp