【大牟田市】「大牟田市動物園」vol.2 動物たちの幸せなくらしを追求する小さな動物園
大牟田市・延命公園の中にある小さな動物園“大牟田市動物園”では、動物の幸せなくらしを追求する飼育員たちの姿を広く公開することで、来園者に「動物福祉」の大切さを伝えています。今回は、来園者も見学することができるライオンの「ハズバンダリートレーニング」を中心に、同園のさまざまなとりくみをレポートします。
園内のあちこちで発見!「環境エンリッチメント」
動物の幸せのため、飼育環境にさまざまな工夫を凝らしている大牟田市動物園。とりくみのなかで大きな柱となっているのが「環境エンリッチメント」、そして「ハズバンダリートレーニング」です。
環境エンリッチメントとは、動物たちにより良いくらしを送ってもらうため、飼育環境を豊かにすること。世界中の動物園で取り入れられている手法ですが、大牟田市動物園では園全体で取り組んでいます。
野生動物の生活は本来、エサの確保や外敵への警戒など、めまぐるしいほどの刺激で満ちているもの。なので、動物園の限られたスペースで単調な毎日を送ることは、動物たちにとってストレスを生むことにも繋がりかねません。環境エンリッチメントの目的は、それぞれの動物の生態に合わせた環境をつくることで、動物たちのバラエティ豊かな行動を引き出すことにあります。
具体例を挙げると、多彩な給餌器「フィーダー」の導入。エサを食べるのに、あえて時間や労力がかかるようにすることで、退屈な時間を減らし、野生でのくらしにより近づけるために設置されています
動物の生態に合わせてさまざまな形状のフィーダーが用意されています。こちらは、ラマやエミューの展示場に設置されたフィーダー。振るとエサが出てくる仕組みになっています。上手に振ってエサを食べる様子はとても愛らしく、見学する側にとっても楽しい仕掛けです。
隠したエサを動物たち自身に見つけてもらう工夫も行われていて、土日祝日にはイベントとして「ライオンの肉探し」の様子も公開されています。「ライオンの肉探し」では、野生のライオンが見せる“穴掘り行動”を引き出すために飼育員が開発した「穴掘りボックス」が使われることもあるそう。これは、見てみたい!
また、害獣として駆除された野生のイノシシやシカなどに人のジビエ用よりも時間をかけた処置を行い、衛生的に管理されたものをライオンをはじめとする肉食動物に与える「まるごとプレゼント」イベントも不定期で実施されています。動物園で、切り身の肉ではない、毛皮のついたままの“獲物“が登場することがあるとは、驚きです。
エミューの後ろにおしゃれなフィーダーを発見!
また、前回の記事でも紹介した「消防ホース」も、環境エンリッチメントに活用されています。
こちらはレッサーパンダのスペース。樹上生活を送るレッサーパンダのため、立体的なアスレチックが組まれています。高齢の個体の落下対策として設置された、消防ホースで編んだハンモックにもご注目を!このように、展示スペースの中にあるモノには、すべて意味があるのだそうです。
動物の健康のための訓練「ハズバンダリートレーニング」
一方の「ハズバンダリートレーニング」は、動物たちの適切な健康管理のために普段から行っている訓練のこと。採血や爪切り、体重測定といったケアに自分からすすんで協力してもらえれば動物の健康も維持しやすくなり、人間の負担も減ります。
大牟田市動物園では、全体の約半数の種にハズバンダリートレーニングを行っているそう。
(余談ですが、取材前「ハズバンダリートレーニングってそもそも何?夫みたいなトレーニングってこと?」と勝手に想像していましたが、改めて調べてみると「ハズバンダリー」という語には”飼育管理””畜産”といった意味があるらしいです。初めて知りました…!)
今回は、ライオンの採血のトレーニングを見学させていただきました。
飼育員がライオンを所定の場所に誘導し、採血の体勢を取ってもらいます。
飼育員が笛を吹くのは「OK」の合図。笛の音のすぐ後にお肉をあげます。この「笛の音がしたらいいことがある」というルールを動物も人も守ることが重要です
この日もルールに従って、ちゃんと所定の場所にやってきてくれました。
採血トレーニング(トレーニングの都度採血をするわけではありません)
おお、百獣の王・ライオンがまったく抵抗することなく、おとなしくトレーニングに協力してくれています!トレーニングは5分もかからずスムーズに終了。負担をかけないために短時間で手早く終えるのだそうです。
ツキノワグマのツッキー
採血のトレーニングは、ライオンだけでなく、トラやツキノワグマなど園内のほかの動物にも行われています。麻酔なしでの採血に成功したもののなかには、日本で初めてだった種もあるそうです。
ライオンのほか、キリンとツキノワグマのハズバンダリートレーニングも公開されていますよ。
残念ながら、ハズバンダリートレーニングの公開は平日限定ですが、土日祝日にも、大牟田市動物園ならではのイベントが目白押し。
キリンのふれあいイベントは土日祝日のみ。キリンと同じ目線でふれ合えるのが特徴
不定期で「うんちキーホルダーづくり」など、かなりユニークな企画が開催されることもあります。イベント情報はHPや園入り口で告知されるので、気になる方はぜひチェックを。
広報の方にお話を伺いました!
広報の冨澤(とみさわ)さん
最後に、大牟田市動物園の「動物福祉」へのとりくみに関して、広報の冨澤さんにお話を伺いました。
ーー大牟田市動物園の動物ファーストの考え方、目からウロコです。失礼ですが、従来の日本の動物園のあり方から考えたら、常識はずれとも言える存在なのではないですか?
冨澤さん:「いえ、型破りというようなことは、まったくないです!ほかの園でも多くの環境エンリッチメントやハズバンダリートレーニングが導入されていますし、動物福祉に熱心に取り組んでいる飼育員もたくさんいらっしゃいますよ。ただ組織として全園を挙げて継続的にとりくんでいるという点は、当園の特色かもしれません」
ーーハズバンダリートレーニングには、飼育員と動物との間の深い愛情や絆が欠かせないのでしょうね!
冨澤さん:「飼育員と動物の絆」「動物と人の間に信頼関係がある」という表現がメディアに掲載されることがあるのですが、そうではなく「笛を吹いたらいいことがある」というルールを動物と人、双方が守っていることで、ハズバンダリートレーニングが形成されています。「この動物のトレーニングはこの人にしかできない」という状況があった場合に、その職員が病気をして長期休暇をとることになったり、あるいは辞めたりしたときに、動物が不幸になってしまうかもしれない。そうならないために当園のハズバンダリートレーニングは、チームの誰もが同じように行うことができるようにしています。
実際、動物に飼育員の見分けはあまりついていないかもしれません。飼育員の制服に似たオレンジ色の服を着ているお客様に反応を示したりしていることもありますよ。」
ーーそうなんですか!ライオンの無麻酔採血成功も日本初と聞いていたので、ライオンと飼育員の感動の心の交流エピソードが聞けるものとばかり、想像していました。
冨澤さん:「ご期待に沿えず申し訳ありません。ハズバンダリートレーニングに関しては、当園が日本初、世界初というケースも中にはあります。ですが、結果的にそうなっただけで、私たちが目指しているのは、新記録の樹立やニュース性ではありません。ただ、動物たちにできる限りのことをしているだけです。」
ーー信念を持って取り組んでいらっしゃるんですね!実は以前、冨澤さんをテレビ番組で拝見したことがあるんですよ。なんと環境学の博士でいらっしゃるそうで。しかも飼育動物に関する国際的専門機関のメンバーとして、アメリカで活躍されていたご経歴もおありとか…そんな方に取材対応していただけると聞いて、実は内心ドキドキしておりました。一体全体どういう経緯で、大牟田市動物園にいらしたんですか?
冨澤さん:「アメリカで働いていた時もそうですが、日本の動物園を悪く言われることがとても嫌でした。“外国の動物園は広くて素敵なのに、日本の動物園は狭いし大したことない”って。それもほかの国の方ではなく、日本の方がおっしゃるのです。どうして自分の国の動物園のことを悪く言えるのかと思いました。
確かに広さを求められたら叶わないところだらけでしょう。でも私の知っている日本の動物園は、飼育技術に長けた飼育員によるきめ細かなケアを行われることで、動物たちが高齢になっても健康にくらすところです。特に飼育技術という目に見えない部分は誇れるものが多いと思っています。
それなのに、悪く言う方もいらっしゃる。本当に日本の動物園はだめなのか、それを確かめるために大牟田に来ました。動物福祉のためにさまざまな取り組みをしていることは以前から知っていましたし、ここでだめだったらほかでもだめだろうと思って、決断したんです。」
ーーそんな経緯がおありだったのですね。そう聞いて、日本の動物園の裏側についてもっと詳しく知りたくなりました!そういえば、大牟田市動物園が舞台となっている映画『いのちスケッチ』が、近々公開されますね。
冨澤さん:「はい、福岡県では11月8日(金)から公開されます。
これまでにも動物や動物園が登場する映画やドラマはたくさん作られていますが、嘘の部分がすぐわかっちゃってとても冷めるんですよね。感情移入できない。でも「いのちスケッチ」の動物園の部分には、嘘がありません。
監督は映画撮影の半年以上前から大牟田に住まわれて、自転車で町中を走り回って情報収集をされていらっしゃいましたし、動物園にも何度も来られて、ありとあらゆることを職員に何度も質問されました。
台本も何回も書き換えられて、その度に動物園としておかしいところがないかチェックをしました。監督と職員たちが一緒に座って1ページ1ページ確認をしたことも何度かありました。
撮影中は、スタッフさん、役者さん、すべての方が、動物たちのことを一番に考えて撮影をしてくださいました。本当に感謝しています。動物福祉に配慮した撮影が行われたということも当園ならではなのではと思いますし、この映画が撮影されたのが大牟田で本当によかったなあと思っています。
この映画は日本における「動物福祉」への関心や社会的認知度の向上にも繋がるのではないかと思っています。動物園ってこんなところだったんだね、と動物園に対する認識を新たにされる方も多いかもしれません。動物園に興味がない、もう何年も行ってない方にこそ観ていただけたらと思います。また、日本だけでなく海外でも多くの方にご覧頂けたら嬉しいです。」
ーーす、すごい。映画を鑑賞したあとには、みなさんきっと、舞台となった大牟田市動物園を自分の目で見たくなるでしょうね。
冨澤さん:「実は、映画「いのちスケッチ」の公開を記念して、2019年11月8日(金)から21日(木)までの間、映画の半券をお持ちいただいた方は無料でご入園いただけることになりました!半券1枚でおひとり様1回のみのご入園となります。是非映画をご覧になられたら、動物園にもいらしてくださいね。」
ーーおおっ!なんという耳寄り情報!こんなお得なサービス、利用しない手はありませんね。映画をきっかけに、もっと動物福祉への関心が高まりますように。
◎ 関連情報
映画『いのちスケッチ』では、主人公がまんが家志望の青年であるという部分にも、伝説的なまんが家を輩出してきた大牟田らしさが出ています。タイムリーなことに、大牟田とまんがとの関わりについては、大牟田市動物園から歩いてすぐの「カルタックスおおむた内の三池カルタ・歴史資料館」で開催中の、秋の企画展「なつかしのまんがカルタまつり」(入場無料、2019年12月8日まで)で知ることができるので、興味がある方は立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
⼦どもとお出かけ DATA
◎⼦どもトイレ/なし(一部に小児用補助便座付トイレあり)
◎おむつ替えシート/あり(授乳室と、園内3か所の「みんなのトイレ」内)
◎授乳室/あり(レクチャールーム内に3室)※ミルク用のお湯は入り口で提供可。スタッフに声かけを
◎ベビーカー貸し出し/あり(1台につき1日100円〈簡易B型〉)※数に限りあり
◎売店/あり
◎飲⾷店/軽食スタンドあり(レストランなし)
大牟田市動物園
福岡県大牟田市昭和町163番地
TEL:0944-56-4526
開園時間/9:30〜17:00 (12〜2月は〜16:30)※入場は閉園の30分前まで
定休日/毎月第2・4月曜日(祝⽇の場合は翌⽇)、年末年始(12月29日〜1月1日)
料金/入園料 大人380円、高校生220円、4歳〜中学生80円、3歳以下無料
アクセス/JR・西鉄大牟田駅(東口側)より徒歩約20分。バスの場合、にしてつバス「大牟田駅前」バス停より行き先番号7-1番「西鉄大牟田営業所行」に乗車。「延命公園・動物園前」下車、徒歩4分。車の場合、九州自動車道南関ICより約30分
駐車場/275台(1日200円)
最新のハズバンダリートレーニングガイドやイベント情報については公式サイト・HPをご参照ください
https://omutacityzoo.org/
FB:https://www.facebook.com/omutacityzoo/
※この情報は2019年11月時点のものです