「運動ができる子ども」を育てるには? 第1話
「うちの子、運動が不得意かも」「親に似てスポーツが苦手だったら…」。ひと昔前に比べて運動ができない子どもが増える中、わが子にそんな不安を持っている親も少なくないと聞きます。でも大丈夫! 普段のちょっとした心掛けやとりくみ次第で、子どもの運動能力を高める方法があるんです。
お話を伺ったのは、メンタルトレーニングコーチとして、多くの子どもたちの精神面や体力づくりをサポートしてきた金屋佑一郎(かなやゆういちろう)さん。「運動が得意な子には理由があるんです」と語る金屋さんに、その“理由”と取り組み方について、お話をお聞きします。
住環境の変化が子どもの体力低下に影響
30年ほど前と比べて、最近の子どもは確実に体力が落ちているそうです。
金屋さん:
「身長や体重は今の子どもの方が優っているにもかかわらず、体力は目に見えて落ちている。それはデータ上でもはっきりしています。
理由はいくつか考えられますが、まず挙げられるのが、住環境の変化。昔は一軒家の家庭が多く、一部屋ひと部屋も大きく、子どもたちも室内でのびのび体を動かすことができました。マンションなど狭い部屋での生活が増えている今はなかなか、そういうわけにはいきません」
能力が未熟なまま立ち上がれてしまう乳児
金屋さん:
「限られた空間での生活は、赤ちゃんの成長にも影響を及ぼすことがあります。本来、赤ちゃんは生後8カ月ぐらいから、“立つ”ことに必要な骨格や体力を備えた上で、つかまり立ちを始めるようになります。でも、狭い部屋の中では、赤ちゃんがつかまりやすい椅子やテーブルなどがすぐ手の届くところにある。そのため、それらの能力が未熟なままでも立ち上がれてしまう。それが後に、子どもの運動能力に影響することもあるんです」
屋外の環境の変化も運動能力に影響
金屋さん:
「屋外の環境も子どもの運動能力に大いに関係しています。昔は自然が多く、子どもたちはその中で自由に遊ぶことができましたが、今はそういう場所が極端に減っています。
親が『危ないから』と子どもの外遊びを制限することも少なくありません。もちろん、危険を伴うことに注意は必要ですが、正直なところ『もう少し寛容になってもいいのでは…』と感じることもあります。子どもがもう一歩頑張ればできるようになることを、親が先回りをしてストップさせてしまうことで、子どもにその能力が身につかないということも、なきにしもあらずです」
持続力が弱い最近の子どもたち
さらに、最近の子どもは、以前にくらべてメンタル面でも大きく変化しているそうです。
金屋さん:
「持続力のなさはすごく感じますね。そしてその原因に、情報過多という背景もあるのではないかと。あらゆる情報が身近にキャッチできてしまうので、子どもたちの興味もいろいろなところにいってしまって、一つのことについて、じっくり集中して考えられない傾向にあるのではないでしょうか。
ちょっと厳しいことを言われたり、即、結果が出なかったりすると、すぐにモチベーションが下がってしまう子どもたちが多いように感じます」
親の運動神経は子どもに遺伝しない
そのような背景とは別に、親の中には「自分の運動神経が鈍いから、子どもも似てしまうのでは…」と心配しているケースも少なくないようです。
金屋さん:
「親の運動神経が子どもに遺伝することは、ほぼないと思っています。運動能力というのは、圧倒的に後天的に身に付くもの。親子で運動が苦手だとしたら、それは遺伝というよりも、親が苦手意識を持つことで、必然的に子どもをそこから遠ざけてしまうからではないでしょうか。
例えば、親が登山嫌いだったとしたら、なかなか子どもを山に連れて行こうとはしませんよね。そうなると、子どもも当然、登山をする機会は失われ、登山に必要な能力を幼いうちに経験することは難しくなります。親の得手不得手が、子どもの経験値にも直結しているケースが多いんです」
5歳〜12歳で身体をよく動かしておくことが大事
お聞きした現状を踏まえた上で、子どもの運動能力を高めるためにはどうすればいいのでしょうか。
金屋さん:
「8歳〜12歳のいわゆる“ゴールデンエイジ”と呼ばれる年齢です。子どもは、この年頃にあらゆる運動を短時間で身に付けられるようになります。ですから、この時期にどれだけの運動、または運動経験をするかが、将来の運動能力に大きく影響するのです。この年代は少しずつスポーツの専門性を養っていく時期に当たりますので、野球やサッカーなど、具体的なスポーツ運動を始めてください。
とはいえ、何か1つのスポーツだけをするのではなく、野球と水泳、サッカーとバスケットボールなど、異なるスポーツを複数プレーすることをおすすめします。1つのスポーツばかりすると、体への負担が偏りすぎるため、小学生でも体を壊してしまうことがよくあるんです。
もう一つ大切にしてほしいのが、“ゴールデンエイジ”の前段階である“プレゴールデンエイジ”と呼ばれている時期です。年齢で言うと、5〜8歳のころ。神経回路の形成が急ピッチで進むこの時期に身体の使い方を学んでおくと、ゴールデンエイジでの伸びしろが広がります。
5~12歳ぐらいの時期に運動をする機会や環境を、親がたくさん作ってあげることが大切なんです。たくさん身体を動かして、スポーツを楽しむことが『運動ができる子』になることにつながるでしょう。一方で、『この時期を逃したらもう遅い』というわけではなく、特にこの時期が効果的、と考えてください」
子どもたちの運動能力の衰えには、さまざまな理由があるようですね。第2話では、金屋さんが実際に親やスポーツの指導者に伝えている、子どもの運動能力を高めるための方法や日頃のサポートについてご紹介します。
profile
金屋佑一郎(かなやゆういちろう)さん
元・読売巨人軍ジャイアンツアカデミーコーチ。大学でスポーツメンタルトレーニングを学び、その後「読売巨人軍ジャイアンツアカデミー」で、コーチとして少年野球の技術指導やメンタル面のサポートを行う。現在も、講演会などでスポーツの指導者や保護者に向けたメンタルトレーニングのノウハウを指導。2児の父。